劇場公開日 2025年3月20日

「煙に巻く神の儀式」教皇選挙 きりんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0煙に巻く神の儀式

2024年12月7日
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鑑賞方法:映画館

①【観賞前の雑感】

日本未公開。
カナダ在住の「ゆ〜きちさん」のレビューで本作の存在を知りました。
未鑑賞ですが、前売り券を買っておきたいくらい興味津々です。

宗教の神聖性を守るためには
コーディネーターが要るのです。
ちゃんと“マニュアル”があるのです。

「外界とは遮断して、部外者には秘匿すべし」。これですね。
世界中どこの宗教も一緒ですね。
隠せば隠すほどに おごそかで、ありがたみが増えるのですから。

日本でも皇居で深夜に執り行われるあの大嘗祭とか、同様ですし。
「絶対に見てはいけない」神の儀式の常道。

でもその中を覗いてみたくなるのが人情というもので、
野次馬たちの好奇心を掻き立てるから、こんな地味な映画でありながら欧米では爆発的ヒットなんだとか。

「煙の色のおはなし」は黒澤明の「天国と地獄」のあの煙を思い出します。
煙=温暖化や有害物質ダイオキシンの大気圏内放出だって?
大丈夫。バチカンは孤高です。
国連にもCOP25のパリ協定にも加盟していません。

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②【観賞を終えてのレビューです】2025.3.23.
やっと劇場で観賞。

蓋を開けて見れば
システィーナも、我々の生きるこの社会も、まったく一緒だった、という事なのですね。

そもそもですが、
「初代=第1代目の教皇」ペテロという男が、どんなエピソードを有する人物であったのか・・
それを知っていれば、本作に描かれた教皇制度の成り立ちも、次代へのバトンタッチの内情も、すべて驚くことでもないのです。

福音書でイエスは述べている
「”第1代教皇“とカトリック教会によって後日認定された12弟子の筆頭=シモン・ペテロ」に対して、イエスは何と告げていたか ―
「あなたが立ち直ったときには〜兄弟弟子たちを励ましてやりなさい」
(ルカによる福音書22章32節〜34節)

「先生、先生、お願いします、自分だけを弟子のトップに据えて下さいよ」とイエスにこっそり頼んでいた弟子のシモン・ペテロその人が、
実はニワトリが鶏鳴したその晩に( =十字架の瀬戸際に)、最もみっともない姿で裏切り行為をなしており、彼は官吏に捕まれた途端に上着を脱ぎ捨ててまで、裸で逃亡していったという有様が
聖書本文には赤裸々に明かされているのです。
すなわちその第1代教皇は目立ちたがり屋であり、かつ棄教者であり、抜け駆けを働いたにも関わらず嘘をついて逃げた「弱き男」であったのだと福音書自体が暴露している。
⇒教会のリーダーの恥の歴史。そこを包み隠さずに晒すところが、聖書の面白さなのですねぇ。

また、この「コンクラーヴェ」が「投票」(くじ)によって成り立つ歴史的根拠としては
◆旧約聖書では、箴言16章33節「人はくじをひく、しかし事を定めるのは全く主のことである」。
◆新約聖書では、使徒行伝 1章23節〜
[23 ]そこで彼らは、バルサバと呼ばれ、またの名をユストというヨセフと、マッテヤの二人を推薦した。
[26] そして、彼らのためにくじを引くと、くじはマッテヤに当たった.そこで彼は、十一人の使徒と共に数えられた。
― このあたりが始まりかと思われます。
イスカリオのユダの自殺のあと、人員の補充のために「コンクラーヴェ」が行われているのです。

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折しも
266代フランシスコが危篤状態にあり、
「自発呼吸が戻った」と報じられたりしている最中での劇場観賞となりました。
(ググればわかりますが、このご本人については脛に傷持つ御仁として、黒い疑惑もかけられているんですね。あのペテロと同類なのです)。

その現 266代フランシスコ教皇は、
カトリック教会の組織の中では、最大派閥フランシスコ会からの登用ではなく、初のイエズス会出身の教皇なのだ、とのこと。
「派閥の会長を選ぶ選挙」は、どこかの国の党総裁を選ぶ根回しとか、思惑のゴタゴタとか、密室での裏取引とか、10万円の商品券とか・・
これは古今、どこも変わらないのだなと云うのが僕の感想でした (苦笑)。

“幹事長”として選挙を取り仕切る首席枢機卿のローレンス(レイフ・ファインズ) の苦悩には、共感しきりでした。素晴らしい演技です。

けれどもドラマの結末として
《群れの中で一番弱くて、代表(=教皇)としては最もふさわしくない人間をば、イエスは敢えて選んで指名して、リーダーとして立てたのだ》という事実。
108人の枢機卿たちの人となりのすべてが《そこ》に当てはまる。
どこにも聖人など居やぁしない。

― 《この故事》があのコンクラーヴェの原点なのだと理解すれば、2025年のバチカンの“すったもんだ”も、そして2000年前のあの12弟子の わちゃわちゃも、愛らしきもめ事として見えてくるから、楽しいし、何だか身近に思えてくるから、
僕たちもちょっと安心もするというものです。

(ただしシモン・ペテロの名誉のために付け加えておきますと、猪突猛進な彼は、後にローマで捕縛されて、処刑されるに当たっては「私はキリストと同じ形では畏れ多い」と自ら申し出て、逆さ十字架で殉教したのだと伝説で伝えられています。絵はミケランジェロ他)。

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③【そして、もう一度、煙について】

やはりあの煙は印象的ですね。

僕は今月、とても若い従兄弟を二人、一週間違いで立て続けに亡くしました。悲しみに暮れていた月の始めでした。
故に、あの「煙」は人の終わりの光景なのだと、煙突を見あげながら僕は思っていたりもしたものです。

「バチカンの煙」は、白だろうと黒だろうと、「新しい教皇の誕生のサイン」ではあるけれど、しかし紛れもなく「先日誰かの命が終わった事のしるし」。

新教皇の誕生よりも、誰かの死去について、気がつくと、スクリーンを観ながら思いを馳せていた映画の時間でした。

·

きりん
bionさんのコメント
2025年4月19日

コメントありがとうございます。
決戦投票をしないというルールは、決定的な分断を避ける仕組みかもしれません。長い時間をかけて、極端な教皇候補者を排除して、結果的に穏健派に落ち着くのかも。

bion
2025年4月19日

自分は映画好きの知り合い三人に
バチカンの選挙の話っすか‼️😵‍💫そういう地味そうで小難しい作品はちょっと🙅🙅‍♂️🙅‍♀️みたいな感じで断わられましたよ🥹🤮
侍タイムスリッパーと一緒で ここまで面白いと自分の好きなジャンルとか超越して面白いってなる可能性が高い作品だと思うんです🫡

お主ナトゥはご存じか2.1ver.
きりんさんのコメント
2025年4月19日

bionさんに一票!
共感ありがとうございました。

自分の名前を書いてみたい・・そのふとしたローレンスさんの欲求。僕、すっごくわかります。
密室で膝突き合わせての数日。人の欲とか本性を顕にさせるこのコンクラーベというシステムは、どっか我々の人間社会に大切なヒントを与えてくれるものかも知れませんね。

きりん
ゆーきちさんのコメント
2025年4月18日

「クィア」公開前からこんなに共感押していただくのが恐縮するくらいつまんないレビューですみません😭…

いつもありがとうございます♪

ゆーきち
どん・Giovanniさんのコメント
2025年4月10日

思いを馳せる映画 ですよね。
レビューも 個性が出ますよね。
コメントどうも ありがとうございます。

どん・Giovanni
きりんさんのコメント
2025年4月10日

システィーナ礼拝堂は、入場券はお昼からは3時間待ちの大行列になります。
向かいの交差点のチケット販売店で「団体入場券」を売ってくれますから胸に「団体シール」を貼ってもらってお店のスタッフの誘導で団体入口からお入り下さい。待たずにスイスイ入れますよ。

きりん
めるさんのコメント
2025年4月9日

コメントありがとうございます!
これまた深い!「全会一致は無効」これまた今回の映画と通ずるものがありますね。
バチカンに以前行ったことがありますが、この映画を観た後に行くとまた感慨深いものがありそうです。ほんま贅沢な映画時間でした。
きりんさんはじめ、皆さんのレビュー拝見してなるほど〜と考察の深さに感動するばかりです。あらためてもう一度観たくなりました👀

める
ふわりさんのコメント
2025年4月7日

きりんさん イイネありがとうございます。
素晴らしいレビューに感嘆しきり、です。

パリ協定加盟してない…トランプと一緒かよーと冗談はさておき、バチカンに詳しくないので、孤高というのがすごく分かりやすかったです。
③はとても胸が詰まります。煙が上がっているのを見たら、少しでも知らない誰かの事を思えたらいいのかもしれません。

ふわり
NOBUさんのコメント
2025年4月5日

こんにちは😃コメント有難うございます。今、久しぶりに「セッション」を劇場で観て、10年振りにガツンとヤラレマシタ。ではでは。

NOBU
Mr.C.B.2さんのコメント
2025年4月2日

きりんさん、他レビューを読むとシスティーナに4時間も居られたのですね。
私はヨーロッパには行った事が無いので一度行ってみたいですね、システィーナに。

Mr.C.B.2
きりんさんのコメント
2025年4月1日

ちなみに、新約聖書の後半部分のほとんどを書簡として残した伝道者パウロは

「もはや、ユダヤ人もギリシヤ人もなく、奴隷も自由人もなく、【男も女もない】。あなたがたは皆、キリスト・イエスにあって一つだからである」。
(ガラテヤ人への手紙 3:28)
という革命的な文言によって当時のユダヤ人至上主義と 男性至上主義を転覆させた張本人です。

きりん
こころさんのコメント
2025年3月30日

きりんさん
若い方の死は尚更お辛いですね。
ご冥福をお祈り申し上げます。

こころ
ゆり。さんのコメント
2025年3月28日

コメントありがとうございました。前教皇は冒頭で亡くなった後は一切登場しないのに、ローレンスの中にずっと存在していましたね。最後の煙を見上げる時には色々な感情があったでしょうね。

ゆり。
ゆーきちさんのコメント
2025年3月25日

さすが、フライングでレビューをアップされただけのことはある、素晴らしいレビュー、私ももうちょっと丁寧に観るべきだったなと後悔しました。

従兄弟さんのご冥福をお祈り申し上げます。

ゆーきち
グレシャムの法則さんのコメント
2025年3月23日

きりんさんが紹介くださっている諸々のことを含んでからもう一度見たくなりました。
サン・ピエトロ寺院の中にはまだまだ門外不出の資料やら芸術作品がたんまりとありそうですね。

グレシャムの法則
sow_miyaさんのコメント
2025年3月23日

ミゼレーレ、1980年録音なのかは不明ですが、タリス・スコラーズ演奏のものがニコニコ動画にあり、先程視聴しました。教会の中での響きが神々しい、美しい曲でした。ご紹介ありがとうございました。

sow_miya
きりんさんのコメント
2025年3月23日

[おまけ]
劇中にも少し流れた「アレグリのミゼレーレ」。1630年頃の作曲です。
長くシスティーナ礼拝堂だけで、年に数回献げられる午前3時からの特別礼拝のための《門外不出》のミサ曲でした。

父レオポルトと共にローマを訪ねた在りし日の少年モーツァルトが、二日システィーナに通って、宿に戻ってそのまま記憶を元に採譜してしまったのは有名なエピソードです。
タリス・スコラーズが1980年に録音したものが最高峰です。9声部による合唱です。
興味のある方、どうぞ。

きりん
ゆーきちさんのコメント
2025年2月23日

先日レポート提出前に語学カウンセラーにチェックお願いしたら、めちゃめちゃ英語を直されて、日本の教育の時代遅れさを痛感しました😭…

翻訳アプリやchatgdp もまだまだ進化の余地ありますね✊。いつになったら英語に困らなくなるんだよ…って今だにため息ついてます😮‍💨

ゆーきち
ゆーきちさんのコメント
2025年2月22日

レビュー、ありがとうございました!

もうすぐアカデミー賞発表で、日本では公開がその後ということで、結果次第では興行に影響がありそうですが、知的な方にぜひお勧めしたい作品です!

ゆーきち
talismanさんのコメント
2024年12月28日

にゃるほど!早く見たい!

talisman
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