「資本主義が生んだ虚像」アプレンティス ドナルド・トランプの創り方 REXさんの映画レビュー(感想・評価)
資本主義が生んだ虚像
アプレンティス
自分の想像よりも、思いのほか早い段階でトランプの人生の表舞台から消えるロイ・コーン。
トランプが彼の傀儡のような存在になり下がるのかと思いきや、そうではなく、飼い犬に手を噛まれた形となった。
イラン人アリ・アッバシの視線はあくまで客観的。
随所に「トランプらしい」描写があり、うまい。
口説き途中で氷に滑って転んだり、ださい髪型を必死に直す姿など、かっこつけたいのにどこかかっこ悪くて、小物感が漂う。キッシンジャーなど政界のフィクサーのような凄みも感じず、大言壮語で金にものをいわす。要するに世間知らずの根っからのボンボンなんだな、と。
ロイ・コーンはなぜ彼に目をかけたのか。たまたまルックスがタイプだったのか、道化にするなら面白い素材だと思ったのか。
他人の言葉やアイデアや、価値観を自分に取り込み、自分の考えのように語るトランプ。
そんな彼が抜きんでた存在になれた理由は、結局のところ、これだという決定打はない。
若さと傲慢さと思い上がりに、親からの金と運…。そしてアメリカの資本主義というシステム。
シンプルな理想を語るがゆえに、そこが魅力ととらえる人もいるのかもしれない。
キャッチコピーの化け物という形容は仰々しくてあまり相応しくない。
高圧的な父親の教えを受け継ぎ、克己心はなく理念も信念もなく、虚像に虚飾を重ねて肥大化した人物。
ロイ・コーンの涙は、こんな薄っぺらな人間に目をかけた自分への哀れみ、自責の念からだろう。
ただ、本当にそれだけなのだろうか。本当のところ、彼のポピュリストでスマートでチャーミングな側面が、大統領に押し上げたのではないだろうか?という疑問が首をもたげる。
つかみかけたところで霧散するトランプ像。
結局、目を離せない存在なのは確かだ。