「ロイ・コーンの怪演がすごい」アプレンティス ドナルド・トランプの創り方 SP_Hitoshiさんの映画レビュー(感想・評価)
ロイ・コーンの怪演がすごい
ドナルド・トランプを、並外れて功名心と成功欲が強いが、利己的で傲慢で、自身に甘く、他者に厳しく、人情が無い、単純で愚かな人物として描いている。人並み以上の成功を求めたために、人並みの幸せを手に入れることができなかった哀れな男としても描いている。
かなりの部分を推測で脚本化している映画とわかるので、この映画を観たからといって、「トランプけしからん」、とはならない。
でも普通にドラマとして面白い。ナイーブな成功欲の高い若者が、ロイ・コーンという怪物に出会い、変貌していく物語。ロイ・コーンの怪人物っぷりの演技は素晴らしい。
ロイ・コーンを、同性愛者でありながら、同性愛に対して蔑視的発言をする、自身が同性愛者であることを認めなかった、複雑な人物として描いているのも面白い。
この映画の核心は、ロイ・コーンの語る「勝利への3つのルール」。どんな汚い、非合法な手段を使ってでも、目的を達成する、というロイのやり方をトランプは目の当たりにしていく。
そして成功者となったトランプは、インタビューで、この3つのルールをロイから聞いたとは言わずに、自分が考えたことかのように語る。ロイから聞いたと言いたくなかったともとらえられるが、むしろ、ロイから聞いたということすら忘れてしまうくらいに自分自身の考えとして一体化してしまった、とも解釈できる。
この映画のトランプは、(もちろん実際のトランプの実像とは大なり小なり違うだろうということは承知で、)利己的な愚かな人間ではあるが、どこか憎めない、共感できる要素もあるように思う。
道徳や良識のごまかしで覆われて見えにくい本音を言ってくれる人物でもあるように思う。兄からもらった子供へのおもちゃをゴミのようにぞんざいに放り投げるシーンは、まるでコントのようで笑えた。
あたりさわりのない言葉ばかりで何を考えているか分からない政治家よりは、悪人でも本音で語ることができる政治家の方がましなのかもしれない。