劇場公開日 2025年1月17日

「この映画を観れば、君もトランプになれる!」アプレンティス ドナルド・トランプの創り方 おきらくさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0この映画を観れば、君もトランプになれる!

2025年1月18日
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監督の過去作『ボーダー 二つの世界』は公開当時に鑑賞していたが、『ボーダー 二つの世界』は重厚な映画だったなあという印象を持っていたため、今回のオープニングがド派手でノリノリな感じだったことに戸惑い、冒頭から不意打ちを喰らった気分になった。

序盤、若き日のトランプと弁護士のロイ・コーンが高級クラブで初めて出会う場面。
ここでの政財界の実力者たちが交わす会話が、差別に満ち溢れたリベラル批判に終始。
彼らが下品な笑いで盛り上がる様子を見て、この映画は2023年公開の『レッド・ロケット』みたいな、最低な人間たちの振る舞いを観て楽しむ映画という認識になった。

この映画はトランプとコーンの「師弟関係」がメインの話。
コーンがトランプに伝授する「勝つための3つのルール」が、今のトランプそのものを表していて笑ってしまう。
この3つのルール、知的にはとても思えないが、そういうことをする人が今の世の中には増えてきているように感じるし、それが通用してしまっていることを考えると、社会はどんどん劣化しているんだなと思えてしまう。

本作でトランプの半生を観ていると、いろいろなことわざが頭の中に浮かんできた。
「勝てば官軍」「恩を仇で返す」「因果応報」。

セバスチャン・スタン演じる若き日のトランプが、「本当に若い頃はこんな感じだったのでは」と思ってしまうぐらい説得力のある演技だったが、歳をとるたびにどんどん今のトランプに似ていくのが凄い。
ジェレミー・ストロング演じるロイ・コーンの方は見た目や振る舞いがオバマ元大統領っぽいなあと思った。
なんて意地悪な演出。

トランプとコーンの共通点は見た目を気にしているところだが、違うのはコーンが筋トレなどで体を引き締めているのに対して、トランプは努力せず金の力でなんとかしようとするところ。
トランプの脂肪吸引と薄毛対策として頭皮を手術するシーンが、リアルでグロかった。
ここは『ボーダー 二つの世界』っぽいと感じた。

イヴァナに一目惚れした後のトランプの行動が完全にストーカー。
金を持っているだけに厄介すぎる。
イヴァナがたまたま「お金大好き人間」だったから上手くいっただけに思えた。
トランプは外見、イヴァナな財産目当てで結婚するわけだが、歳を取れば破綻するのは容易に想像できる。

コーンの「結婚=財産を半分取られる契約」という解釈が新鮮。
結婚前から「離婚した時にどうするか」の話し合いを持ちかけるのも凄い。
「離婚したらそれまでに渡したプレゼントは返すこと」って、せこすぎる。

トランプとイヴァナが口論中、イヴァナに何を言われても平然としていたトランプが、髪が薄くなったことを指摘された瞬間激怒するのは思わず笑ってしまったが、その後すぐにトランプが性暴力によってイヴァナを黙らせるシーンで、劇場内が凍りついた感じがした。

この映画を観ていると、トランプのやりたかったことが「富裕層への優遇(具体的には減税)」ということがよくわかる。
法案を通そうとするときは「庶民のためにもなる」みたいなことを言っていたが、いざ法案が通って大儲けした後、目に付くのはトランプのケチな体質。

日本でも「トリクルダウン(今回調べるまで「トリプルダウン」だと思っていた)」といいながら、富裕層や大企業を優遇する政策を取り続けた結果、企業の内部留保は過去最大を記録する一方、給料はたいして上がらず、実質賃金は低下の一途。
おかげさまで、貧富の差は超拡大。
物価上昇で庶民がどんなに苦しもうが、金持ちにとっては対岸の火事。
どう考えてもおかしいと思うのだが、そうは思わない人が世の中には大量にいるのが辛い。

余談。
映画館が6階にあったので、そこに向かうためのエレベーターに乗る時に起きた出来事。
1階でエレベーターをしばらく待っていたら、エレベーターが到着。
扉の前で待っていた人が一気に乗り込んだ結果、エレベーターはすぐにほぼ満員状態。
そんな中、一人の老人がエレベーターにやって来て、コントロールパネルの前に立っていた20代ぐらいの男に「上行くの?下行くの?」と質問。
ところが、男はガン無視。
老人が再度尋ねてもガン無視。
近くにいた女性が「上行きますよ」と返事を返した結果、老人も乗り込んで、エレベーターは出発。
エレベーターが上昇中、コントロールパネルの前に立っていた男が突然、老人に向かって「何で俺がお前みたいな身分の低い人間の質問に答えなければいけないんだ」と意味不明な発言。
「うわ、何このネトウヨっぽいやつ」と思っていたところ、エレベーター後方にいた女子高生二人組のうちの一人が「意味わかんない」とぽつり(みんなに聞こえるぐらいの小声で)。
一気に高まる緊張感。
その後、沈黙で進み続けるエレベーター。
6階に到着。
降りるのは自分一人だけ。
降りるのが、ものすごく気まずかった。
映画を観ながら「あの男もトランプの影響かも」と思った。

おきらく