「実業家としてのトランプの、何を描きたかったのかがよく分からない」アプレンティス ドナルド・トランプの創り方 tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)
実業家としてのトランプの、何を描きたかったのかがよく分からない
トランプに似ているというイメージのなかったセバスチャン・スタンだが、特徴的な口元をうまく再現していて、そのうちトランプ本人に見えてくるのだから、やはり熱演と言って良いのだろう。
内容的には、トランプと、彼に影響を及ぼした弁護士との関係が描かれているのだが、確かに、弁護士は、成功するための三原則なるものを教示しているものの、それで、トランプが、純粋な若者から「怪物」に変身したのだとはとても思えない。
攻撃的で、自分の非を認めす、勝つことに執着する実業家なんて、それこそ五万といるだろうし、生き馬の目を抜く実業界では、そういうキャラクターこそ求められるに違いないと、逆に納得してしまった。
トランプがのし上がっていく手口にしても、相手の弱みにつけ込んで脅迫し、人種差別の訴訟を取り下げさせたり、ホテル建設に伴う税金を免除させたのは、あくまでも弁護士の方で、トランプ本人があくどいことをした訳ではない。
あるいは、積極的な不動産事業の展開で資金繰りが苦しくなったり、結婚生活に行き詰まったり、脂肪の吸引や薄毛対策の手術を受けたりはするものの、それで、トランプの人格に大きな問題があるとも思えない。
むしろ、エイズに罹患した弁護士を、一度は切り捨てようとしたものの、最後は、死期の迫った彼を自宅に招いて、感謝の気持ちを伝えるところなどは、トランプが「善い人」に思えてしまった。
結局、実業家としてのトランプの出自は分かったものの、そんな彼の何を描きたかったのかは、最後までよく分からなかった。
トランプが、国民的な人気を獲得する契機となったリアリティ番組への出演のエピソードは描かれないし、自らが政治家になるよりも、金を渡して政治家を動かした方が良いと考えていたトランプが、どうして大統領になろうと思ったのかも分からずじまいで、観終わった後には、大きな物足りなさが残った。