「「悪人伝」監督、再びの“三つ巴ノワール”」対外秘 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
「悪人伝」監督、再びの“三つ巴ノワール”
イ・ウォンテ監督は2020年に日本公開された前作「悪人伝」で、悪魔のような連続殺人犯、犯人から重傷を負わされ復讐に燃えるギャングのボス、犯人逮捕のため手段を選ばないダーティーな警官という3人を柱に据え、ボスと警官が裏をかこうと画策したり喧嘩したりしながらも共闘して犯人を追う、バイオレンスと緊迫感に満ちたノワール映画で楽しませてくれた。
そして最新作の「対外秘」では、1992年の釜山での国政選挙を舞台に、ワルたちの三つ巴の争いが再び展開する。今回の主要人物は、党公認候補の約束を反故にされた地元政治家ヘウン、公認候補をすげ替えて投票や公共事業計画まで裏で操る権力者スンテ、劣勢のヘウンのため選挙資金調達に協力して見返りを当てにするギャングのピルド。前半はおおむねヘウンとピルドが手を組みスンテに対抗する構図で進むが、半ばあたりからスンテの策略によりヘウンとピルドのタッグが崩れ始め、誰と誰が裏で組んで残りの一人を出し抜くのかがストーリーの推進力になっていく。
テレビの画面で1992年大韓民国大統領選挙(金大中を含む3候補が立ち、金泳三が勝利)のニュース映像が流れ、時代感を醸しつつ史実とのリンクもほのめかす。1963年の朴正煕から全斗煥、盧泰愚と約30年ににわたり続いた軍人政権が終わり文民政権が発足するなど、「政治的な緊張が凝縮された年」だったとイ・ウォンテ監督も語っている。とはいえ、さほど韓国の政治史に明るくない多くの日本人観客にとってそうした歴史的背景や選挙の実情は伝わりにくいのが難点か。タイミングとしても、10月27日の衆院選、11月5日の米大統領選と続いてメディアで報じる側も見聞きする側も選挙の話題はひと段落のムードになった後で、11月15日の日本公開は少々間が悪かったかもしれない。