「政治家は、悪魔の取引を終えると、サングラスを外せるらしい」対外秘 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
政治家は、悪魔の取引を終えると、サングラスを外せるらしい
2024.11.19 字幕 アップリンク京都
2023年の韓国映画(116分、G)
国会議員になりたい候補がなりふり構わず目的に向かう様子を描いたサクペンス映画
監督はイ・ウォンテ
脚本はイ・スジン
原題は『대외비』で「対外秘」、英題は『The Devil’s Deal』で「悪魔の取引」という意味
「対外秘」とはいわゆる秘密文書などの外に出してはいけない極秘書類などのこと
物語の舞台は、1992年3月の韓国・釜山
国会議員を目指すチョン・ヘウン(チョ・ジヌン)は、地元の海雲台にて支援者に目セージを送っていた
だが、釜山のフィクサーとも呼ばれるスンテ(イ・ソンミン)の判断で公認は取り消され、議員素人のヨンミク(キム・ソンフン)が公認されることになった
ハシゴを外されたヘウンは怒り、無所属としての出馬を決意する
そして、同窓生で市役所の本部長でもあるムン・チャンホ(キム・ミンジェ)にあることを依頼する
それは、今後行われる土地の再開発事業に関する決定情報で、ヘウンはそれを武器に地元のヤクザ・ピルド(キム・ムヨル)を通じて、実業家のハンモ(ウォン・ヒョンジュン)から多額の金を引き出すことに成功した
これで選挙に勝てると思っていたヘウンだったが、スンテは選挙管理委員会のパク課長(キム・ユンソン)に秘密裏に近づき、彼から「偽造された大量の投票用紙」を獲得する
これによって、ヨンミク票が圧倒的となり、ヘウンはあっさりと負けてしまった
彼には多額の借金だけが残り、自分を貶めた者の正体を探ることに躍起になる
そして行き着いた先に、議員のノウハウを指南してきた恩師スンテに辿り着いてしまうのである
映画は、選挙に負けたヘウンがスンテと対決する姿勢を見せ、そこにピルドが絡んでくる様子が描かれていく
さらにヘウンを取材する社会部の記者ソン・ダナ(パク・セジン)も絡んでくるのだが、政治的な圧力が報道を歪めていく
そして、ヘウンは更なる一線を越えることで、悪魔との取引を成立させてしまうのである
映画は「フィクション」と強調されて始まる物語だが、今の海雲台の発展とその周辺との乖離を見ると本当にあったことなのかなあと思ってしまう
政治闘争がメインではあるものの、ほぼ大韓民国党内部のパワーゲームになっていて、フィクサーに楯突く議員候補という構図になっていた
そこに地元のヤクザの暗躍があって、彼らはどちらに付くのかという心理戦があって、その包囲網を強引に引き寄せたヘウンが完全勝利する流れになるかと思えた
だが、スンテの方も一筋縄ではいかず、「引き分け」に持ち込むことになり、政治的パワーゲームは幕を下ろすことになったのである
映画は、緊張感を保ちつつ、どのような決着になるのかが読めない作品になっていた
ヘウンとピルドの間にできた絆をスンテが上手くほぐしていく流れは絶妙で、ピルドの欲が自らの首を絞めることにつながっていた
役名のない子分に裏切られるところが肝で、これから名を馳せていく無名の反乱というものは恐ろしくもあるのだろう
ヘウン自身も無名で終わりたくない一心から暗躍するのだが、自分自身が何者かを示す顕示欲とか自己承認は欲深いものなのだな、と痛感させられる
ヘウンのように一緒に戦ってきたバディすらも風向きによっては仕留めることができてこそ、真の勝者になれるということなのかもしれない
いずれにせよ、政治の世界で生き抜くことの難しさを描いているのだが、ここまで無慈悲になれないと生き残れない世界なのかなとも思う
政治の裏側は弱みにたかる強者の怨念のようなものでできていて、非情であることの必要性が痛感できるとも言える
そうした中で、温厚なヘウンがどのような覚悟を決めるのかと見る映画であり、その変貌の瞬間を捉えた作品でもある
どこまで非情になれるのかはわからないが、それを悟られないためにサングラスが必要な時期があって、それを外せる時にようやく本物になれるのかな、と感じた