「タイトルなし(ネタバレ)」動物界 yudutarouさんの映画レビュー(感想・評価)
タイトルなし(ネタバレ)
面白かった。久々に新鮮な気持ちで作品を楽しめた気がする。人間が動物化するシチュエーションはヒーロー物やホラージャンルで似たようなものが沢山あるけれど、動物化していく過程をリアルに見せて、意識が段々と獣のそれに変化していく、進化なのか退化なのかよく分からない感覚が不思議で新しかった。作品の切り口も沢山あって、変化する人々の最初を丁寧に描くというところはX-MENなどミュータント的ヒーローの始まりの時代をリアルに描いているようにも見えるし、動物化してしまった人たちへの反応はコロナ下での人々の愚かさの記録のようでもある。動物化の病(?)に罹患した息子の苦悩やその後の展開は『狼男アメリカン』の現代版的面白さだし、その息子と父親の関係性、距離感、台詞の感じなどは超リアルで、動物化は生まれ変わり=大人になることへのメタファーでもあって家族物としても凄くよく出来てる。個人的には父親が息子のことが大好きで、親密であろうとするのだが、そうしようとすればするほどに距離が離れていくという感じ、かなり身につまされて分かるよ〜ってなった。悲しいけど。あと動物化した人間の造形が良くて、何気なく画面を横切る動物人間のシュールさなどCG技術の素晴らしい使い方だと思った。スーパーで暴れるタコ人間とか最高だし。
そしてラストの父親が息子を残酷な世界へ解き放ち、『生きろ』と叫ぶところ、号泣だったよ。本気で世界から息子を守ろうと思い、お前のためだと言って、ずっと子供に干渉し続けた父親が、ついに最後、息子を解き放し、息子は自分自身で自分の人生を走り出す。世界がいかに酷く残酷でも、自分の意思を持った子供に対して親がやるべきこと、やれることは、ただ信頼して自由にさせてあげることだけなんだよな、ということをガツンと思い出させてくれた。自分が子供だった時のことを思えば当たり前のことなのに、親になってしまうと分からなくなっていたことを分からせられる感じ。で、泣いちゃった。とはいえ子供を前にするとやっぱりアレコレ言っちゃうんだけどね。
