「異形の世界で、愛を貫けるか。」動物界 しゅわとろんさんの映画レビュー(感想・評価)
異形の世界で、愛を貫けるか。
「この世界で、人間は動物になる」というキャッチコピーと、異形でありながらどこか美しさを感じるクリーチャーデザイン。その手の物が大好物の私が鑑賞しない訳もなく劇場へ。
人間が次第に知性を失い、動物の姿へと変異してしまう奇病が発生した世界。「新生物」と呼ばれるその病人たちは隔離され、人々はその異形と凶暴性に恐れを抱いていた。
そしてある日、移送中の事故によって新生物たちが野に放たれてしまう。主人公フランソワは息子のエミールと共に、事故で行方知れずとなった新生物の妻・ラナの捜索を始めるのだが…。
この映画のウリは何と言っても、異形化した「新生物」たちである。完全に獣化する前の段階の左右非対称なそのデザインはまさに「奇病」と呼ぶに相応しいもの。しかし、異形の中にどこか美しさを感じる。流石は美の国フランスといったところか。そして言わずもがな彼らは人間、差別・隔離される苦しみ、悲しみ、恐怖を当然抱いている。役者の熱演もあり、その感情がひしひしと伝わってくるようだった。
様々な意味で「新たな世界」に足を踏み入れて行くエミールと、必死に妻を探し続けるフランソワ。そして増加していく新生物絡みの事件と、次第に高まっていく新生物排除の機運……。
差別される異形たち、という設定がありながら、メインとなるのは徹底してフランソワとエミールの親子、そしてその親子愛だ。ジャパニメーション等であれば「共存出来るのか」等を主軸に置きそうなものだが、非常にミクロな部分をメインに据えた事で取っ散らかる事なく纏まっている。
新生物やそれらへの差別が何のメタファーなのかは意見の割れる所であろうが、様々な解釈が出来るはずだ。私はやはり記憶に新しいCOVID-19が頭に過った。
音楽の使い方も印象的で素晴らしかった。BGMを使うシーンを極限まで絞る事で、メロディーが記憶に焼き付く。映画音楽でありながら、どこか民族的な響きのある良い劇伴だ。
差別され排斥されても、愛を貫くこと、「生きる」ことの素晴らしさをこの映画は教えてくれる。世界に差別がある限り、このメッセージ性は普遍的な物だろう。