「多面的な問い」動物界 La Stradaさんの映画レビュー(感想・評価)
多面的な問い
人間の肉体が様々な獣や鳥・タコなどに変貌してしまう奇病が広がり始めた世界を描く物語です。このお話の舞台となるフランスでは、発病の兆候が見られると特殊な収容施設に強制的に入れられてしまいます。一方で、社会では発病者への偏見・侮蔑・排除が進みます。それ故、発病した本人や家族はそれを必死に隠そうとするのでした。こうした事態はコロナ禍での騒動のコピーに見えます。様々な思惑が錯綜し、先行きが全く見通せなかったあの時に本作の想を練ったのではないでしょうか。
しかし、本作は単なるパンデミック物語ではありません。既に獣に変貌して森に逃げた母を持ち自身も感染した少年と父の親子物語でもあるのです。思春期の少年として父への反発を感じながらも父からの助けも求め、父も何とか息子に手を差し伸べようとします。でも、何が「助け」なのかが分からないのです。
そして、もう一つ。本作は「人間の定義」をも問うていると思います。完全にタコになってしまって言葉も喋れず意思の疎通も出来なくなった存在は最早「人間」ではないのでしょうか。いや、まだ人間だろうと思いますが、本当に「人」として相対する事ができるでしょうか。もし、人間でないとするならば、その境界線はどこに引けばいいのでしょう。とんでもない例かも知れませんが、問うているものは意外と深いのでした。
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