「自分の居場所」動物界 サプライズさんの映画レビュー(感想・評価)
自分の居場所
「ぼくのお日さま」「ロボット・ドリームズ」と言ったように、2024年下半期はミニシアター系の映画が度々話題になるから映画好きとしてはすごく嬉しい。本作も全国上映館20館足らずにも関わらず、話題沸騰で絶賛の嵐。フランスでスマッシュヒットしたらしく、完全にノーマークだったけどこれは行かなければと、慌てて鑑賞。
タイトル、概要を読んだ限り、ゾンビ映画のようなモンスターパニック映画かと思っていたけど、正反対と言えるほど印象が違った。とても他人事には感じられない、リアリティ溢れる恐ろしく苦しい人間ドラマ。これはすごい。不覚にもめちゃくちゃ食らってしまった...。
言わば"見える化"した感染症が猛威を振るってる世界の話であるため、つい最近まで我々の日常を奪ったCOVIT-19のことを想像せざるを得ない。パンデミックが齎す世の中の変化。いまとなっては馬鹿らしい話だけど、あの当時は感染者を人間としてではなく、まるでケダモノかのように社会から遠ざけ隔離し、本作の動物変異の奇病に侵された人々と同等の扱いを行っていた。
だから本作は何もただの創作物では無く、人間の心理描写を動物という形で具現化したノンフィクションスリラーと言える。見た目がキモイ。我々人間様と同じ世界に住んでいい生き物では無い。そんな理由で現実世界との遮断を図る。だが、ここで終わらないのがこの映画の魅力。
一度悪い印象を与えてしまうと、名誉を挽回するのは難しい。人間は未知なるものに対する警戒心が一際強く、たとえ小さなミスだとしても危害を加えてしまったり、悪影響を与えてしまったのなら、そのもの全てが悪いものだというレッテルを貼る。そして、獲物を見つけたかのように過度に攻撃を始める。
「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」ではそのような人間の自己中心的な考えと傲慢で悪どい所業が醜く描かれており、あそこまではないものの、本作もかなり被る部分がある。また、「もののけ姫」の〈自然界と人間界の共存〉というメッセージもまたこの映画の根幹にあり、狙いを定めた標的は絶対に逃がさないという、人間の恐ろしさがストーリーに込められていた。
このように、幾度となく描かれてきた普遍的なテーマをベースに置きながら、世界中の様々な映画を通して辿り着いたと思われる、この映画ならではの独創的な物語が全編繰り広げられており、その先に監督が込めた怒りとも捉えられる強いメッセージが、もうズタズタになるほど心に響いてしまった。
人間が動物に進化してしまうSFクリーチャーものとしての面白さももちろんあって、「エイリアン ロムルス」に次ぐ造形美に惚れ込んでしまった。というか、全身の体毛が濃くなったり、乳歯がポロポロと取れたり、爪が鋭くなったりと、進化過程があまりにリアルで震えたよね....。いつ起きてもおかしくない。そんな説得力があった。
面白いとか感動するとか、そんなことすら言いたくない。ダラダラと書いてしまったけど、少しでも興味を持った人は是非とも鑑賞して頂きたい。いまの世界の状況と相まって、色んな感想が湧き上がってくるし、自身の感じたことを話したくなるに違いない。
人間から動物に進化してしまう病が流行っている遠くない未来。人間と"動物人"は果たして共存することが出来るのか。そして、病は終着を迎えるのか。2024年ベストはもう変動することがないと思っていたが、ここに来て衝撃作を目の当たりにしてしまった。。。