劇場公開日 2024年11月8日

「制度に反抗しろ!」動物界 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5制度に反抗しろ!

2024年11月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

全く事前の情報を入れずに観に行きましたが、のっけからギアがフルスロットルに入った作品で、終始刮目して鑑賞しました。

舞台は近未来のフランス。感染すると動物になってしまう(獣化してしまう)病気が世界的に蔓延してしまった世界。感染者は人間としての理性を失って凶暴化することから、監獄同然の施設に閉じ込められてしまう。ここだけ聞くと実にSFチックで、あり得なさそうなストーリーですが、この病気を新型コロナに置き換えれば実はつい最近現実のこととして我々の眼前に広がった悪夢であり、そう感じた瞬間に恐ろしい現実を戯画化したお話だと捉えることとなり、心の奥底に突き刺さるお話でした。

内容的には、獣化してしまった母親の回復を信じた父(フランソワ)と息子(エミール)が、移送中の自動車事故で行方が分からなくなった母親を捜すものでしたが、その過程でエミールも獣化していることが判明。それを知ったフランソワのショックは計り知れないものがありましたが、最終的に”制度に反抗しろ!”という自らの信念に従い息子を助けるフランソワ。その充足感、満足感を映して幕となりましたが、悲劇的な話でありながらも、悔いが残らない生き方を見せたフランソワの行動と、最後の笑顔に、勇気を貰った気がしました。

また本作で注目すべきは、その映像の素晴らしさ。獣化してしまった人間のリアルな姿は、恐ろしくもあり愛おしくもあり、感性を揺さぶられるものでした。そしてこのような内容でありつつも、フランソワとエミール親子の情愛をきちんと描いているのを皮切りに、エミールと同級生の恋愛を描いてみたり、エミールと先に獣化して鳥の姿になってしまったフィクスとの友情を描いてみたり、はたまたフランソワと女性警備隊員のジュリアとの信頼関係を描いてみたりと、登場人物たちの輪郭を立体的に見せる描写が随所に挿入されており、非常に味わい深い作品でした。”制度に反抗しろ!”というフランス人らしい反骨心を冒頭でフランソワに言わせ、最終盤でフランソワに実行させるところや、ジュリアがフランソワに対して繰り出した格闘術を、危機に陥ったフランソワが繰り出すことになるなど、伏線の回収にも余念がありませんでした。

そんな訳で、本作の評価は★4.5とします。

鶏