「【”努力と戦略と情熱と夢。”今作は、友人も多く、成績優秀だが夢がなかった高校生が、絵画の魅力に取り付かれ東京藝術大学を目指す姿を、彼の友人達の生き様を絡めて描いたムネアツな青春受験映画である。】」ブルーピリオド NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”努力と戦略と情熱と夢。”今作は、友人も多く、成績優秀だが夢がなかった高校生が、絵画の魅力に取り付かれ東京藝術大学を目指す姿を、彼の友人達の生き様を絡めて描いたムネアツな青春受験映画である。】
ー イキナリ私事で恐縮であるが、今でも年に1.2回悪夢を見る。
周囲は私と同じ受験生で、皆、必死にペンを走らせている。私は自分の目の前の答案用紙が白紙である事に気付き、”残り、10分です。”と試験官の声が響く中、猛烈に焦りながらペンを走らせる・・、と言う夢である。
ハッキリ言って、トラウマである。
だが、あの年齢の時に必死に勉強した結果、メンタルも鍛えられ、今、休日にノンビリ映画を観ていられるのだと思っている。
そして、今作で矢口八虎(眞栄田郷敦)が、東京藝術大学の一次試験、二次試験に臨む姿を見て、且つての自分を思い出してしまったのである。
故に、ラストの合格発表のシーンで涙腺が緩んだのは言うまでもない。-
◆感想
■良かった所
1.矢口八虎が、好青年で頭も良く友達も多いが、夢を見いだせずに過ごす日々の描き方。
友人達とスポーツバーで呑んで、早朝の渋谷の空を眺めるシーン。そして、彼が家では両親に心配を掛けないように、振舞う姿。
食事が終われば食器をキチンと流しで洗い物をしている母(石田ひかり)の元に運び、家に入る際には靴をキチンと揃えて脱ぐ姿。彼が、両親からキチンと育てられた青年だという事が、丁寧な描写で分かるのである。
2.矢口八虎と鮎川龍二:ユカちゃん(高橋文哉)の関係の描き方。
ユカちゃんは女性のような服や髪をしているが、八虎は変な眼では見ない。逆にユカちゃんの存在が、彼に美術部の森先輩(桜田ひより)が描いた絵との出会いを齎している。
ユカちゃんも、東京藝術大学の日本画コースを目指しているが、彼の嗜好を認めない父親の行いにより、一次試験でキャンパスに×を付けて部屋を出て行ってしまう。
ユカちゃんの事を心配した八虎が電話を掛けた時の会話。
”海に居るんだけど、来れない?””いや、もうすぐ2次試験なんだけど。””アンタはいつも、安全圏にいるのよ。”という会話の後、八虎が嫌な予感がして入水しようとしていたユカちゃんを助け、海沿いの旅館でユカちゃんから”お互い、自分の裸を描かない?アンタは、色々と身に纏っているから服を脱ぐのは大変そうだけど。”と言って二人で自分の裸を描くシーン。
このシーンが、八虎の二次試験のシーンに効いてくるのである。巧い。
更に言えば、八虎の両親が心配しつつも、息子が選択した道を応援する姿と、描かれないが、ユカちゃんの生き方を否定する父親との対比も、さりげなく示されている点である。親の度量の違いが、子供に与える影響を暗喩している様に、私には思えたのである。
3.矢口八虎と遊び仲間の高校生との関係性の描き方。
特に、藝術大学受験に悩む八虎をフルーツパーラーに呼び出し、”俺、パティシエになるわ。”と言った遊び仲間の高校生の姿と、八虎が頑張る姿を陰で見守る皆の姿も、ボディブローのように効いてくるのである。
■もう少し、掘り下げて欲しかった所
1.ヨタスケ(板垣李光人)の聡明で、自信たっぷりだが、何処か屈折していて卑屈な理由をもう少し掘り下げて欲しかったかな。それにしても、板垣李光人さんは良い役者であるなあ。
2.八虎が通う美術予備校の同級生と八虎との関係性の描き方。けれども、予備校の先生を演じた江口のりこさんは、相変わらず抜群に巧いなあ。
<東京藝術大学の合格発表のシーン。合格番号が掲示されている所などは、私自身の合格発表を見に行った時のことを想い出す。ドキドキである。
家で電話の前で待っている八虎の両親に八虎が掛けた電話。
ホント、このシーンは涙腺が緩んだなあ。
両親が仕事や家事を頑張ってくれたから、八虎は夜間の美術予備校に通えたんだものなあ。あの八虎の電話は、最高の親孝行であり恩返しだと思ったなあ。
今作は、友人も多く、成績優秀だが夢がなかった高校生が、絵画の魅力に取り付かれ、東京藝術大学入学を目指す姿を、彼の友人達の生き様を絡めて描いたムネアツな青春映画なのである。>
合格を通話やLINEで知らせる所良かったですね、その後ピンクの紙袋を持ってる姿が出る。本人が不安に圧し潰されそうになったり、親御さんの心配とか見せられると、もう合格! しかないって感じでした。