「理性と感情両方に訴求する秀作」ドマーニ! 愛のことづて 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
理性と感情両方に訴求する秀作
今週はコナンの新作が公開されたということもあって、コナン以外は全般的に品薄な感のある映画界。そこで気になっていながらもまだ観に行けていなかった3月14日公開の本作を遅ればせながら観に行きました。
チラシの写真が白黒なので、てっきり昔の作品のリバイバル上映だと思っていたのですが、実際は全く違って新作でした💦でも舞台は第2次世界大戦直後のイタリアはローマ。主人公のデリア(パオラ・コルテッレージ、監督兼主演)の夫イヴァーノ(バレリオ・マスタンドレア)は、壮絶なDV野郎。何かにつけて妻を殴る蹴るなどの暴行を働くのは勿論、暴言の数々は目に余るもの。加えてイヴァーノの父である舅も、今は体調を崩して寝たきりになっているものの、イヴァーノに輪を掛けたDV野郎。ベッドに寝ながら嫁を罵り続ける恐ろしさたるや、怖気が走りました。さらに夫婦の2人の小学生くらいの息子たちも、祖父や父に倣って既に乱暴な言葉遣いをするDV予備軍。つまりは親子3代に渡る折り目正しいDV一家な訳です。娘のマルチェッラこそ母に暴力を振るわないものの、DV夫に唯々諾々と従う母のようになりたくないと母のことを軽蔑している始末。
こんな地獄絵図を描いた本作ですが、嫌悪感満載で観てられないと思う一方、イタリアの懐メロ風の音楽が流れてミュージカル調に夫婦がDVをしながら踊ってみたり(このアイディアと振り付けは抜群!)、会話のそこここにクスっと笑いを誘うフレーズが入っていたりと、コメディとDVを見事に融合させた監督の演出に心を左右に揺さぶられる心地良さもあり、一筋縄ではいかない作品でした。
そしてここぞという時に失敗するデリアの姿を描くという”伏線”を張り巡らしておいて、ラストで一気に回収するという構成も見事であり痛快。そして謎の”手紙”が、実はイタリア史上初めて女性参政権が認められた選挙の投票券だったとは、全く予想だにしておらず、この展開にも唸るばかり。特に、毎度のドジを踏んで投票券を落として投票所に向かったデリアの後を追ったDV夫との追っかけっこに興味を集中させておいて、最後に娘が投票券を持って来て母に手渡すシーンは秀逸でした。これは戦後80年経過しても、いまだ世界的にミソジニーが幅を利かせる世界への、映画表現を使った理性的抗議であると同時に、感情表現によって親子の情愛の美しさを描く普遍的な物語でもあり、非常に美しいシーンでした。
そんな訳で、本作の評価は★4.6とします。