「自分の考えに酔う人、人の考えに疑問を持たない人、尽くしていることに生きがいを感じている人に贈る人生讃歌だったのかもしれません」憐れみの3章 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
自分の考えに酔う人、人の考えに疑問を持たない人、尽くしていることに生きがいを感じている人に贈る人生讃歌だったのかもしれません
2024.10.1 字幕 イオンシネマ京都桂川
2024年のアイルランド&イギリス&アメリカ合作の映画(165分、R15+)
同一キャストによる3つのオムニバス形式の不条理劇
監督はヨルゴス・ランティモス
脚本はヨルゴス・ランティモス&エフティミス・フィリップ
原題は『Kinds of Kindness』で「思いやりの一種」という意味
映画は3幕構成となっていて、同じキャストが違うキャラと違う関係性を演じる内容になっている
第1章は「R.M.F.の死」で、上司レイモンド(ウィレム・デフォー)に隷属的な部下ロバート(ジェシー・プレモンス)が描かれ、彼との関係が拗れる様子が描かれていく
第2章は「R.M.F.は飛ぶ」で、行方不明の妻リズ(エマ・ストーン)を思う夫ダニエル(ジェシー・プレモンス)が描かれ、彼の前にまるで別人のような妻が帰ってくる様子が紡がれていく
第3章は「R.M.F. サンドイッチを食べる」で、セックスカルト教団のメンバーであるエミリー(エマ・ストーン)が、教祖オミ(ウィレム・デフォー)とその妻アカ(ホン・チャウ)に気に入られようとするものの、夫ジョセフ(ジョー・アルウィン)と関係を持ったために破門される様子が描かれていく
それぞれの主人公は、自由意志で動いているように見えて支配されている人々で、その解放がどのように訪れるか、という内容になっていた
第1章のロバートは、レイモンドの命令を拒否して干されるものの、偶然知り合ったリタ(エマ・ストーン)という女性が自分の立場にいることを知って奪い返す、という流れになっている
レイモンドは一連のロバートの行動を読み切っていて、彼を動かすことで目的を達しているのだが、ロバート自身は自分の意思で動いていて、その行動に達成感を覚えている
第2章のダニエルは、戻ってきた妻が別人であると確信し、その妻に対して無理難題を吹っかけていくのだが、それらが果たされたのちに幻影に囚われるという結末を迎える
ダニエルも自分の行動に達成感を感じているが、その場所に誘導したものの正体はわからないという感じになっていた
第3章のエミリーは、教団に気に入られるために候補者探しに奔走し、夫のレイプによって追放された後も、教団に気に入られようと躍起になっている
彼女は念願の候補者を見つけ出すことに成功するものの、悲劇的な結末を迎えることになった
それぞれのパートは独立しているが、演じている人が同じで、その役柄は少し変化がある内容
エマ・ストーンは純真無垢な隷属者、ジェシー・プレモンスは懐疑的な非支配者、ウィレム・デフォーは自賛的な支配者という印象があった
また、脇を固めるホン・チャウやマーガレット・クアリーの役どころは、各章の主人公を深みにハマらせる役割を担っていたし、ママドゥ・アティエは場の空気をそのまま維持する役回りのように思えた
あんまり深く考える映画でもないのだが、何かしらの意味があるように感じるので、考察好きな人なら、あーでもないこーでもないとこねくり回しそうに思う
それでも、単純なブラックコメディのようにも感じるので、エマ・ストーンの妙なダンスからのダイブをシニカルに笑える人の方が合っているのかな、と感じた
いずれにせよ、一風変わった不条理劇で、よくわからないことに全力投球している人を揶揄する映画のようにも思える
その行動に価値を感じる人の妄信を俯瞰的に見るイメージがあり、かなり悪趣味な映画なのだと思う
面白く感じるかは何とも言えない部分があるが、これまでの監督作を観てきた猛者ならば、一見訳のわからない物語にも何らかのメッセージを受け取ってしまうのかな、と感じた