「やられっ放しじゃ終わらせない!衝撃の二部構成」サユリ しゅわとろんさんの映画レビュー(感想・評価)
やられっ放しじゃ終わらせない!衝撃の二部構成
「貞子VS伽椰子」、「コワすぎ!」シリーズetc…バトル×ホラーに定評のある白石晃士監督が、押切蓮介氏の漫画「サユリ」を実写映画化。
原作を全く知らない状態で鑑賞したが……まぁ何とも怖がらせてもらったし笑わせてもらった。原作がそういう作品である事だけは知っていたが、ここまで宣伝から何から何まで振り切って映画化したその清々しさと、単におバカ映画というだけに終わらない作品としての完成度に驚いた。
予告などからも匂わせられているが、この映画は二部構成となっている。
前半数十分は正統派なホラー映画。中古の一戸建てに引っ越してきた矢先にどこかから聞こえる不気味な笑い声、時折現れる少女の霊、そして不自然に次々と命を落としていく家族……恐怖演出は王道中の王道。シンプルイズベストな怖さだ。
そして後半。前半のホラーは前フリ、ここからが本編だ。
家族が立て続けに取り殺され、主人公・則雄も万事休すかと思われたその時、朝日と共に則雄を救ったのは序盤からずっと認知症でボケていたはずの祖母・春枝であった。悪霊に家族を殺された怒りで認知症から目覚めた春枝は、則雄と二人で「アレを地獄送りにしてやる」と、高らかに復讐を宣言するのであった……。
悪霊と真正面から戦う。呪われた家から逃げるのではなく、途中でなし崩し的に戦うのでもなく、自らの意思で戦う事を選択する。王道ホラーだった前半から一転、バトル映画に早変わり。キャッチコピーの「見せてやる、極上の地獄を」が人間側のセリフだとは一体誰が想像しただろうか。
人を殺すほどの力を持つ悪霊に、一体どうやって対抗するのか?ここが最高に面白いポイントなのだが……それは是非劇場で確かめていただきたい。
敵が悪霊化した経緯まで詳細に描かれる為、観終わった後のモヤモヤ感は皆無。それどころか、青春映画を観た後のような爽やかな後味が残る………。「生きる」というテーマやメッセージ性もはっきりしており、「明日からも頑張ろう」という謎の活力すら湧いてくる。なんとも奇妙な映画である。
欠点としてはR15指定という事もあり、一部台詞が極めてお下劣な事である。性的な方の下ネタが決め台詞のように恥ずかしげもなく使われる様はある種のカッコよさすら覚える上に、悪霊という死した存在に「生きる力」を支える三大欲求の一つ「性」で立ち向かう、という理屈も一応通る。かつギャグとしても笑える人には笑える……という感じではあるが、如何せんお下劣過ぎるので人によっては不快感を覚えるだろう。家族や異性なんかと観に行った日には気まずいなんてものではない。
また、純粋な「ホラー映画」を観たい人もこの映画を観てはいけない。この映画の本編は後半のバトルなのだから。
公開から1ヶ月が経過し、終映する劇場も増えてくるとは思うが、ここまでの文章を読んだ上で「観たい」と少しでも思った方は是非とも劇場へ足を運んで頂きたい。おバカ・B級的なノリが好きな方、カッコいいおばあちゃんが見たい方、可愛らしいヒロインが見たい方……色々な方にオススメしたい映画である。
この映画の出来とインパクトは素晴らしいものだが、それに触発された凡庸で薄ら寒い二番煎じが現れない事を祈りつつ、このレビューを締めようと思う。