劇場公開日 2024年5月31日

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「馬いらなかったんじゃね?」ライド・オン インステアさんの映画レビュー(感想・評価)

2.5馬いらなかったんじゃね?

2024年10月27日
PCから投稿

最近のジャッキー映画の中では観たかった一本。なぜなら「ポリス・ストーリー」とかの映像が出てきて、かつてスタントマンだった男という物語だったから。
まあその予告編を見た時点で、「馬いらねえんじゃね?」と思ったことは確か。ジャッキーは別に馬スタントで有名になった人じゃないんだし、娘との確執や、スタントマン全盛期だった過去を描くのなら、馬なしのほうがジャッキーその人となりのドラマ性を持って、見応えがあるものになりそうな気がした。
これジャッキーも出た「キャノンボール」の監督ハル・ニーダムの「グレートスタントマン」にヒントを得たか、同じ狙いの映画だと思うんですよね。あるいは最近の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」を観て発想したのかもしれない。往年活躍したスタントマンの現在は恵まれない姿を描くのはジャッキーが演じる意義があると思う。
鑑賞後の感想としては、やっぱり馬いらなかった笑 予告編の時点でも、馬の演技とアクションはCGを足して表現するのがミエミエだったのだが、本編はあまりにそれが露骨すぎて(とはいえラストのNG集を観ると、まあまあ本物の馬も使っているのだが)、ドラマに分裂症を引き起こす。誰でも思うことだろうが、映画の中ではCGを全否定するキャラクターなのに、年老いたジャッキーはかなりCG頼りで、特にクライマックスの馬のハイジャンプに挑むシーンは、疾走中の映像があまりにもCG然としていて、いったいどんなヒネリの演出意図なのかと、こっちが首をひねる羽目になった。だが大して意味はなかったようだ。
馬を使って泣かせようという魂胆が、あまりにも滑っていて、全然うるっとこない。しかも最後のほうはそれがあまりにくどく長いのでげんなりしてくる。娘役の女優さんがすごく上手だったし存在感もあったので、そっちとの関係をもっとラストで丁寧に描いてほしかった。
全体的に、スタントマンという業界ネタを使いたかったジャッキーだが、ストレートに描くのが照れくさかったのか、あるいは重荷に感じたのか、馬という副次的なネタに逃げてしまったなあという感じ。「ジョーカー2」がミュージカルに逃げてしまったのと似ているかもしれない。しかし最近のジャッキー映画の中では、中国プロパガンダ色が薄めのことや、女優の演技がいいことや、暴力的でなくて教育的なこと、薄っぺらくはあっても人間ドラマをきちんと描こうとしたことは良かったと思える。お涙頂戴の好きな日本人にウケると思ったのか、ジャッキーがひさしぶりに自ら来日した理由もわかる。
しかしもともと「キャノンボール」のエンディングNG集が「へらへらふざけて笑っているだけなのが気に入らなかった」というジャッキーが、真剣勝負のNG集を始めたきっかけだったはずだが、この映画のエンディングNG集は「へらへらふざけて笑っているだけ」である。代役とCG頼りだから仕方ないともいえるが(実際にはファンなら知っての通り、全盛期からジャッキーのスタントマンはスタンリー・トンが務め、のちに「ポリス・ストーリ3」の監督に昇格)、なんとなく「言ってることとやってることの違いは受け入れなきゃ駄目?」と聞きたくなる映画だった。

インステア