「【参考のためネタバレ扱い】極端な難易度で理解が追いつかない…(「善意取得」の意味等、補足入れてます)。」ライド・オン yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)
【参考のためネタバレ扱い】極端な難易度で理解が追いつかない…(「善意取得」の意味等、補足入れてます)。
今年201本目(合計1,293本目/今月(2024年6月度)1本目)。
(前の作品 「告白 コンフェッション」→この作品「ライド・オン」→次の作品「マッドマックス フュリオサ」)
久しぶりに法律ワード飛び飛びの謎映画に当たった気がします。
…というかこの映画、ジャッキーチェンのファン映画だったような気がするんですが…。こんな法律ワードマシマシに出てくる展開を想定していっても返り討ちにあうだけかなと…。
なお、私自身は行政書士試験の合格者レベルです。
この映画、恐ろしいことにアクションシーンよりも法律ワードが飛びまくるのが極端に厳しく、一般的な用語からいきなり「(中国)民法311条の善意取得」といった語が出てきて、「善意取得???」というところで理解が大半詰まるんじゃないか思います(吹き替え版はどうなっているんでしょう?後述)。何もこんな極端な難易度にしなくてもいいのに…。というか、この映画の趣旨的に本国「のみで」放映されていた映画を日本のジャッキーチェンファンの存在から日本語化したために、アクション映画かと思えば法律ワードの飛びまくりという、力尽きる人が続出するんじゃなかろうかといったところです。アクションの部分もあるといえばあるのですが、馬の所有権が何だの善意取得だのといった話が大半で、わからない語が続出して力尽きるんじゃなかろうか…といったところです。
採点は以下のようにして、補足いれながら見ていきます。
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(減点0.5/「善意取得」が何を意味するかたいていの観客は理解しがたい)
日本で狭い意味の法律職(弁護士、司法書士、行政書士)はあわせて11万人しかおらず、超大手映画館の一番おおきなシアター(大阪だと、tohoシネマズ梅田のシアター1)で1000人入るのでそこに一人いるかいないかです。この中で「善意取得」はぶっ飛んだ難易度です。しかもこの法律ワードは何度も出る割にストーリーの理解につながる部分であるのが極端に厳しいです。
かつ、中国映画であるがために、字幕の「一見して不自然、不親切と思える点」も日本・韓国の漢字文化圏では類推してみることは可能ですが、「善意取得」の意味を類推してみるのはもう無理じゃなかろうかと思えます。
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(減点なし/参考/「民法311条の善意取得」って何?)
結論からいうと、日本民法192条の「即時取得」に相当しますが、いくつか異なる部分があります。なお、中国語の日本語訳は法務省のサイトから引用したものです。
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(日本民法192条(即時取得))
取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する。
(中国民法311条(善意取得))
処分権を有しない者が不動産又は動産を譲受人に譲渡した場合,所有権者は取り戻す権利を有する。法律に別段の規定がある場合を除き,次に掲げる事由に該当する場合は,譲受人は当該不動産又は動産の所有権を取得する。
(一)譲受人が当該不動産又は動産を譲り受けた時に善意であったとき
(二)合理的価格で譲渡されたとき
(引用者注:以下省略)
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しかし、この2つには異同もあります。異なる点は代表的な点として以下の部分です。
・ 中国の善意取得には「不動産」が含まれているが、日本では含まれない
・ 中国の善意取得は「善意であれば」足り、無過失まで要求はされない
※ ある事情を「知らないこと」を「善意」、「知っていること」を「悪意」といいます。たとえば、「ある馬が実は盗品だった」「その馬は実は病気持ちで子を産めない」といった「認識」のことですね。
※ 中国民法では「善意」しか要求されないので、これを「善意取得」というわけです。
・ 日本民法は「取引行為」とするが、これは広くも狭くも解釈される。つまり、贈与や競売競り落としには適用されるが(判例)、「有効な」取引行為でなければならないと解するので、未成年者からの取引や、無権代理からの取引では適用がない(有効ではないため)。
そして厄介なのは、
・ 「善意取得」の語自体は、日本では有価証券に関する特別法にもいくつか存在するが(有価証券は転々譲渡することが想定されているため、このような規定を置かないと取引ができなくなる。なお、基本法の民法にも有価証券に関する規定が2か所あり、そこでも「善意取引」だが、特別法に大半投げているので抽象的規定)、その場合は過失の有無について結論が異なる(悪意・善意重過失のみ否定され、それ以外は取引重視のため善意取得を肯定する)
・ そもそも論として「善意悪意」といった語自体が完全に宅建以上の民法の話
★ (もっと本質論として)このトリックが成り立つか見解が分かれる(中国では2023年公開。このときも弁護士もこの映画を取り上げて「善意取得が成立するか」を取り上げていた) ※ 日本でもかなり怪しいように思えます。
…といった点で、日本で相当するものは「即時取得」(日本民法192条)になりますが、吹き替え版はそうなっていたんでしょうか?
まぁ、本当に法律ワードが多すぎてジャッキーチェン出して下さいよといった感じなのですが…。こりゃマニアック過ぎる…。
(参考/減点なし/映画内で「331条ではなく311条だろう、それじゃ試験に合格できない」)
これは人・国の制度それぞれですが、弁護士や行政書士司法書士など狭い意味の法律系資格では何らかの形で筆記式があるので、どこの国でも「登場頻度の高い条文は、条文番号ごと覚えていることが望まれる」ものがあります。
日本でいえば、
・ 94条(通謀虚偽表示)
・ 177条(不動産の第三者対抗要件)
・ 192条(即時取得)
・ 333条(先取特権と第三取得者)
・ 424条(詐害行為取消権)
・ 697条(事務管理)
…などがあるかなと思います。