「スーツ、似合うね。」室井慎次 敗れざる者 サプライズさんの映画レビュー(感想・評価)
スーツ、似合うね。
過去作鑑賞本数ゼロ。オーバーロードに引き続き、またもや完全初見でやって来てしまいました。日本映画を代表する大ヒットシリーズだし、当時のスタッフも大集結したということで不安要素はかなり多かったけど、これまたさほど問題なく、ストーリーそのものは踊るシリーズ未見でも十分に楽しめた。
ただ、およそ12年ぶりの最新作。お待たせしました!と言わんばかりのファンムービーっぷり。過去作の名シーンが相当数映し出され、なんの思入れもない自分にとってはもちろん心に響くことはなく、ちゃんと予習してたら存分に楽しめんだろうな〜と思わずにはいられない。
しかも前後編の二部作という、なかなかに気合いが入った上映形態。こんなに攻めて大丈夫か?と心配だったけど、良くも悪くも丁寧な作りといった印象で、ファンにはたまらないだろうけど初見にはどうしても長ったらしく感じてしまった。合わせて4時間もあるわけだから本作オリジナルのキャラに関しても、室井慎次という男の人柄も無知な自分にも分かりやすく、そして魅力的に描くことが出来ていたし、随所に笑いも起きていて人物を際立たせるという意味ではとても良かったと思う。
だけど、前編にあたる本作「〜敗れざる者」では事件が起きただけであって、本当にびっくりするくらい何も進まない。散りばめただけ。回収作業は後編「〜生き続ける者」に全振り。前後編としてのバランスは悪いし、めちゃくちゃずるい作りだよね...。
それでも、踊るシリーズを予習して見ようと思うくらいには面白かった。またこうして室井慎次というキャラを再演するというのは、柳葉敏郎にとってこれまでの俳優人生を振り返る集大成的な意味合いを持つだろうし、今後この役をもう一度演じたことは役者としての魅力を更に高めてくれると思う。室井慎次は初めてだったけど、柳葉敏郎はずっと見てきた。過去作に思い入れはないけど、同じ役を何十年も演じてきた彼の姿に、なんだか感極まるものがあった。柳葉敏郎という男を知るために、室井慎次を見ていきたい。そういう思いに駆られた。
あとひとつ。少なくとも前編の本作は刑事ドラマとして見に行ってはならない。現役を引退した有名刑事の人間ドラマ。これを前提に見る必要がある。てっきり緊張感たっぷりのゾクゾクする刑事ドラマが見れると思っていたから、肩透かしを食らってしまった。ただ、人間ドラマとして見ればなかなかに質の高いものに仕上がっているのでご安心を。室井さんの人との接し方を見て一瞬で好きになったし、展開も順当でとても良かった。子ども達との平穏な日々に心が浄化される。「人はたまに笑うくらいがいいんだ」意外とそれは的を得ているかもね。
いつもおでこにシワを寄せる室井慎次。無愛想で頑固そうな見た目とは裏腹に、愛で溢れる心の持ち主。彼の周りにはそれを理解している人が多く集まる。初対面なのに、この映画を通して何故彼が愛されるのかわかった気がする。そういう目線で見れば、とてもよく出来た作品。
事件が何も解決していないというのもあるけど、結局後編が楽しみ。全ては後編にかかっている!にしても、前編なのに過去シーン流しすぎじゃね?最終回かと思ったわ。