「後編次第という大前提ではあるが」室井慎次 敗れざる者 タランティン・クエンティーノさんの映画レビュー(感想・評価)
後編次第という大前提ではあるが
後編を見なければ完全な評価は出来かねるが、とりあえず現時点では前編の出来は良いと感じる。なんというか、「ハズした部分が無い」という感じ。無難とも言う。
まず、日向杏役の福本莉子が素晴らしい。
「あ、こりゃ日向真奈美の娘だわ」というのをすぐに納得出来る、説得力のある演技だった。
それから、今回の被害者がレインボーブリッジの事件の容疑者という設定も良い。
「なぜ今更踊るの続編をやるのか」という問いに対して、「当時のスタッフがそろそろ引退するから」とか「フジテレビがもうひと稼ぎしたいから」みたいな制作サイドの理由ではなく、「昔の事件の容疑者が出所したあとの話をやるからだ」と、ストーリーの部分で正々堂々と答えが出せる設定なので、とてもスマートだ。
出所した元受刑者が社会に馴染むのはただでさえ難しい。あの事件の「洋梨」の彼らなら尚更そうだろう。彼らが出所した後に社会に馴染めずまた犯罪に手を染めるというのは納得感があり、無理のない設定だ。
また、すでに退職した室井慎次が捜査に参加する理由として自然というのも大きなプラスポイントだ。
この映画は恐らく「事件被害者のその後と向き合う」のと同じぐらい、「罪を犯した人間のその後と向き合う」というのがテーマになってくるのだろう。刑務所での面会シーンがそれを象徴していると思う。
だから"洋梨"の彼らを20年経過した今持ち出してきたというのが、決して単なる懐古のファンサービスなんかではないというのが伝わる。きっと後編でそのへんがしっかり掘り下げられるのであろう。
また、室井慎次という人間のパーソナルな部分の描写も、とても丁寧に描かれておりファンとしてはしっかり満足出来るものだった。
今作は制作陣もかなり気合が入っているのが伝わってきたので、後編もぜひ期待したい。