「最大の敬意と感謝を。」港に灯がともる ひつじさんの映画レビュー(感想・評価)
最大の敬意と感謝を。
震災後の神戸、在日韓国人女性、心の傷、人と人との分かりあえなさ・・・
難しいテーマが、いくつもあって、1つのテーマだけでも映画として成立しそうなのに、それを1作品、しかも2時間以内にまとめた安達監督は、本当にすごいです。
そして、主人公を灯を演じた富田望生さん。
演じたというより、『スクリーンの中で、灯として生きていた。』という言葉がしっくりきます。今も、『灯は確かに神戸にいる。』そう思う事が自然なくらい。
圧巻だったのが、トイレでの長回しのシーン。ひたすらトイレのドアだけを撮り続けます。それなのに、息をするのを忘れるくらい見入っていました。
扉の向こうには、灯が自分の心と闘っているから。「息遣い」だけで、このシーンが成立していました。そんな俳優さん、他にいるでしょうか。
「灯、頑張れ、大丈夫。灯のペースで。。」祈るような気持ちでドアを見続けていました。灯を応援していた言葉が、気がつけば、私自身が灯を通して励まされていました。
涙が止まらなかったです。
こんな突き抜けた演出をした安達監督は、私たち観客にちゃんと伝わると、「監督は、観客の事を信じてくれている。。。」そんな感情さえ芽生えました。
また、本作は、膨大な時間をかけて、取材を重ねたとの事。だからこそ、作品に散りばめられた言葉の数々が印象に残っています。
特に、灯の精神科の主治医の「あなたが感じる感情は、あなたを守るための感情。だから全て正しい。」私は、この言葉に本当に救われました。
そして、「私は私として生まれてきてしまった。」という言葉。
私は、不眠症で眠るという当たり前のことが上手くできず。そんな自分が情けなく、受け入れたくなかった。だけど、灯さんと出会い、この言葉と出会い、少しずつ受け入れていこうと思えました。
とても、誠実な作品。この映画と出会えて良かった。「港に灯がともる」に携わる全ての方に最大の敬意と感謝を込めて、ありがとうございました。
わたしも、金子灯がそこに居るような氣がしています。演じているのは確かに富田望生なのですが、神戸のどこかに金子灯が居て、それを富田望生が演じている。その上で、富田望生と金子灯を同一視してしまいます。