「どうしたらええんやろう」港に灯がともる La Stradaさんの映画レビュー(感想・評価)
どうしたらええんやろう
神戸大震災から30年目の翌日 2015/1/18 に観ました。震災の翌月に神戸市長田区で在日コリアン3世として生まれた女性の物語です。
成人式の日には、「震災から20年が経ちましたが」とマスコミに取材され、父親からは、韓国から渡って来た家族の歴史を繰り返し聞かされて来たのですが、彼女にとってそれらは、自分が知らないのに勝手に背負わされた物でしかなく、
「昔の話ばっかりされて、どうしたらええん?」
と苛立ちを募らせるのでした。その細やかな思いを改めて提示されると「なるほどなぁ」と分かる気がします。一方、彼女の家族が日本への帰化申請手続きを進める中、父親だけはそれを頑固に拒否し続けます。在日として差別を受けて来た父はただ怒鳴るばかりなのですが、彼の意地もまた「そうだろうな」と理解出来ます。更には、コロナ禍を経て変容していく土地の商店と人々の姿。どれもこれも、
「そりゃそうだろうな。でも、どうしたらええんやろうな」
ばかりで、それが澱(おり)の様に静かに彼女の心に積もって行くのでした。その苛立ちと不安を表す富田望生さんが非常に繊細で力強かったです。朝ドラの『ブギウギ』で彼女を観て「力のある役者さんだなぁ」と感じたのですが、その印象通りの際だった眼差しでした。これから伸びて行く役者さんでしょう。
安易な答えを提示せず、何とか希望を見出そうと作品自体が藻掻く姿が素晴らしかったです。これは多くの人に観て欲しい。
補遺:本作中で、震災からの復興の祈りを歌った『しあわせ運べるように』の合唱シーンが描かれていました。僕は初めて知った曲です。
♪ 地震にも負けない 強い心を持って
亡くなった人のぶんも 毎日を大切に 生きていこう ♪
これは現実に被災された方が作られた曲だし、この歌が神戸の人々を励ます事が出来て愛唱されて来たのならば、素晴らしい事です。でも、このシーンが本作に挿入されたのは何故なのかなと少し気になりました。
「亡くなった人のぶんも 毎日を大切に 生きていこう」
という言葉を、彼女は「背負わねばならぬ物」と感じていたのではないだろうか。それはまた、どうしたらええのか分からん辛い事です。
NHK BSスペシャル
「しあわせ運べるように 阪神・淡路大震災25年 神戸が生んだ奇跡の歌の物語」
初回放送日:2020年1月23日(2025年1月17日再放送)
でした。
NHKの番組でこの歌に関するものがあっていました。
歌詞の直接的な表現についての賛否の考えも含めて、なかなか掘り下げてありました。
もし、見る機会があれば、挿入されていた意味も少しは伝わるかもしれません。