「天邪鬼にもなれない」好きでも嫌いなあまのじゃく 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
天邪鬼にもなれない
『泣きたい私は猫をかぶる』『雨を告げる漂流団地』に続く、スタジオコロリド×Netflixの長編アニメ。
同スタジオの第一回作『ペンギン・ハイウェイ』はとても良かったのだが、Netflixと共同製作の2本はまあまあ…。
『ペンギン・ハイウェイ』のような快作になったか? 今回の題材は…
ひと夏、冒険、ファンタジー、ボーイ・ミーツ・ガール、そして鬼!
夏に突然雪が降る不思議な現象の山形。
人に嫌われたくない故、頼まれ事を断れない高校1年の柊。友達はおらず、家庭では我の強い父親とソリが合わず…。
そんなある日柊は、バスの運賃で困っていた少女を助ける。
ふとしたきっかけで出会ったその少女は、頭に角の生えた鬼の少女ツムギであった…。
今、鬼の出るアニメと言うと、アレ。
しかし、あんなにおっそろしい鬼ではなく、赤肌やトラ柄パンツでもなく、飛行や電撃ビリビリの特殊能力も持っていない。
頭に小さな角が生えてるくらいの、見た目は人間と同じ。
人間の世界へ母親を探しに来たというツムギ。目指している神社がある。
柊はツムギを案内。それが思わぬ冒険と成長、忘れられぬ出会いとひと夏に…。
スタジオジブリのようなボーイ・ミーツ・ガール、人間世界のすぐ隣にある異世界。
新海誠監督『すずめの戸締まり』のような実在の場所を巡るロードムービー。
道中、様々な人たちとも出会い。
画は美しく、温もりあるタッチ。
天真爛漫なツムギ。周りからの視線も気に掛けず、言動もズバズバ。
一方の柊は…。
それまで人に嫌われたくない為だけにやってきたが、ツムギと出会って初めて自分から人の為に何かをしようとする。
旅には危険も。二人を度々襲う何か。
それはツムギの住む鬼の里の鬼たちを食らう。
力になりたい。危険に晒したくない。相手の事を思う余り…。
思わぬ危機に対し試される家族との関係。そして…
優しき少年と天邪鬼少女の成長と交流と…。
ユニークな設定が多いコロリド作品の中で、最も王道。
だけど、残念ながら…。今回もまた悪くはないけど、特別良くもなく…と言った所。
今回の難点はもう分かりきっている。
題材や設定は悪くないのに、それを活かせなかったストーリーがダメダメ。
大雑把、説明不足、中途半端、深みに欠け、結局何を描きたかったのか…?
さらに悪い事に、見始めから気になる点ばかり。
出会いはいい。が、出会ったばかりの鬼少女を家に招く柊。怖い鬼じゃなくて良かったね。
柊の家族も何の抵抗もなく迎え入れる。お風呂にご飯にお泊まりまで。親切心はいいが、相手の事情や家族の事は…?
その夜突然現れた何かに襲われ、家の外に放り出される。
そのまま目的の神社に向かうツムギ。柊も案内同行。
夜遅く、少年少女がお金もスマホも持たず、親にも相談連絡せず、軽装のまま旅に。ご近所散歩じゃないんだよ。
柊の家族も夜突然居なくなった二人を(しかも柊の部屋は荒れて)心配するが、警察に連絡しない。父親が探しに行くだけ。
旅の途中で出会った人たち。ヒッチハイクで停まってくれたフリマを開く兄妹、熱出したツムギを休ませ柊に仕事までくれた旅館の女将や従業員たち、ツムギが気になった屏風が飾られている喫茶店の店主…。
旅の出会いは魅力の一つ。なのにこれらが全く魅力に欠ける。それぞれの個性やエピソードも淡白で、ただ用意配置されたに過ぎない。
『すずめの戸締まり』のようなこの人と出会えて良かった、別れが惜しいなどの感動、一緒になって旅をしているワクワクも感じられない。ここ、非常にがっかりだったなぁ…。
柊とツムギを襲う何か。その正体は、ユキノカミ。雪を降らし、鬼の里を人間世界から隠す守り神であったが、それが突然…。
ユキノカミの体内に呑み込まれた柊は、誰かの声を聞く。容易く察しが付く。
ツムギの母。里を救う為に生け贄になった過去…。
里に平和は訪れたが、何故私だけ…?
悲しき母の声に、娘が応える。
母の悲しみが消え、家族が再会。
柊やツムギの父や里の鬼たちも里を救おうとするが、何だか蚊帳の外。
柊とツムギが共に懸命に奔走するような展開もナシで、カタルシスや躍動感もナシ。
何か、気付いたら危機が去ってめでたしめでたしになってたような…。
別れも名残惜しさを感じない。
冒険を経て家族や学校とも円滑になった柊。
後日、ツムギが会いに。
あの旅の中で柊はツムギに思いを伝えた。今度は私の番。
この終幕は爽快で良かったが、全体的には…。
面白味も感動も無いまま…。本当にもっと話何とかならなかったかね…?
ビミョーであっても好きな所も言いたいが、これじゃあ天邪鬼にもなれない。
個人的にスタジオコロリドの不完全燃焼続く。
同社とNetflixの共同製作アニメは次回作も待機中らしいが…
次こそ『ペンギン・ハイウェイ』に続く快作を! 期待していいのかな…?