八犬伝のレビュー・感想・評価
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虚と実、CGとリアルの相乗効果が言い知れぬ深みをもたらす
曽利監督といえば、これまでCGをいかにストーリーと馴染ませるかに腐心してきた人だ。そのアプローチの果てに、登場人物が所狭しと駆け巡る”絢爛豪華なフィクション”と”今まさに物語が湧きいづるリアル”という本作の二重構造にたどり着いたことは感慨深い。冒頭のかなり駆け足な”虚”のあらすじ描写に、”実”のパートがある種の理由づけを与える趣向も面白い。また、虚と実はまるで呼応する振り子のようだ。勇士たちが不思議な玉を探し求める旅と同じく、馬琴もまた一つの輝ける物語を磨き続け、それは彼一人の孤独な旅かと思いきや、そこにはやはり仲間がいる。北斎や南北といった天才らが刺激し合うのはもちろんだが、病弱な息子、夫を罵ってばかりいる妻、そして息子の嫁、その全てが馬琴を支える掛け替えのない宇宙なのだろう。いつも以上に役所広司の素晴らしさに舌を巻いた。彼の存在感こそが虚と実、双方に魂を吹き込んでいることは間違いない。
虚と実が渦巻く歴史に引き込まれる眩暈にも似た感覚
今から2500年以上前の中国の思想家・孔子を始祖とする儒教が日本に伝来したのは5世紀頃。時を経て江戸時代後期の19世紀前半、滝沢馬琴は儒教における「八種の徳」に基づく勧善懲悪を主題に「南総里見八犬伝」を28年がかりで書き上げた。それから約1世紀半後の1982年、山田風太郎は小説「八犬傳」を連載開始。「南総里見八犬伝」の物語を再構成した“虚の世界”と、馬琴の創作過程や友人の絵師・葛飾北斎との交流を描く“実の世界”を並走させる内容だった。これを原作とし、VFXの使い手として知られる曽利文彦監督が脚本も自ら手がけて実写化したのが2024年公開作「八犬伝」だ。
悪事がまかり通る現実の世界で正義など絵空事だと斜に構える北斎(内野聖陽)に対し、だからこそ虚構の世界で勧善懲悪を説くのだと主張する馬琴(役所広司)の対話は、興味深い創作論であると同時に、人はいかに生きるべきかという哲学的な問いかけにもなっている。さらには、実世界を生きる人々の想像力と思考から創作物や思想・宗教が生まれ、そうした虚の世界が後世の人々の精神に影響を及ぼし新たな現実を形作るという、虚と実が互いに影響し合いながら歴史が発展していく、そんな創作と現実が織りなす歴史の大渦に巻き込まれるような眩暈(めまい)にも似た感覚を、本作の両パートを行き来しながら味わった。
大長編の伝奇活劇である「南総里見八犬伝」のパートを、本編149分のさらに半分程度に押し込めたので、当然ながら筋を大幅に端折っており、アクション場面やVFXスペクタクルの質・量ともに物足りなく感じるのも正直なところ。もっとチャンバラを見たい、お金をかけたスペクタクルを見たいという向きには、1983年公開作「里見八犬伝」がおすすめだ。角川春樹事務所の最盛期に製作され、潤沢な資金を後ろ盾に深作欣二監督がやりたい放題の娯楽大作で、真田広之、千葉真一、志穂美悦子といったジャパンアクションクラブ(JAC)の看板俳優や目黒祐樹らが大暴れするし、薬師丸ひろ子には珍しく濃密なラブシーンもあるわ、お金をかけまくった闇の軍団の本拠地セットでは生き血の風呂で夏木マリがヌードになるわで、笑っちゃうほどの見所満載ぶり。ただし同作では物語の発端である里見家の城主と娘の伏姫、忠犬の八房、斬首された玉梓などのくだりが絵巻物と台詞で説明されるのみなので、その辺を丁寧に実写で描いた今作の「八犬伝」とうまい具合に補完し合っている。その意味でも、この機会に2作を見比べてみてはいかがだろうか。
描かれる"虚と実"が観客の想像力を刺激する
江戸時代の人気作家、滝沢(曲亭)馬琴が構想する8人の剣士の物語『八犬伝』を、友人の絵師、葛飾北斎に語り聞かせている。映画は『八犬伝』の物語世界から始まり、すぐにそれが虚構だと分からせた上で、一転、資料が山積みになった人気作家の仕事部屋へと場面は転換。以降は、馬琴のもとを予告なしで度々訪れる北斎が、物語に刺激されて挿絵を描いていくという現実パーツと、『八犬伝』の虚構パーツとのカットバックで映画は進んでいく。誰もが知っている実在のアーティストをモデルにしているので、観客の頭の中も別次元の"虚と実"が入り乱れて楽しいと言ったらない。
物語の世界は若干仰々しい演出になっているが、一方で、馬琴と北斎それぞれの"虚と実"に対する考え方の違いが浮き彫りになっていくプロセスが示唆に富み、興味をそそる。馬琴役の役所広司はいつも通り入魂を感じさせる熱演だが、馬琴とは対照的に奔放な自由人として画面に現れては消えていく北斎役の内野聖陽が、今回は役所のパワーを逆手にとって生き生きとしている。
人気小説の裏にドラマあり。作家が作品に込めた思いと、江戸の町民文化の心意気を感じさせる1作だ。
誰もが痛快な虚を見たいがそれだけでは成立させてくれない現代よ
名作「ピンポン」でデビューした曽利文彦は1964年生まれで1973年から始まったNHKの人形劇「新八犬伝」は小学校3~6年のドンピシャ世代なのだろう。「ゴジラ-1.0」の山崎貴も同世代でやはりこれをやりたかったと語っており辻村ジュサブローのワイヤーもろばれ人形劇ファンタジーを最新VFXでどう見せてくれるのかが最大の関心事であった。そして予告編にも使われている伏姫の着物を咥えて引っ張るモフモフの八房が素晴らしくそこにこの映画の本領を見た。ゴジラは実在しないからリアルなのだけれどちょっと大きい犬は誰もが見て知っているのでここのCGが一番難しいと思うのだ。ピンポンの球をCGで描いたようにそのものを見世物にしない(観客に意識させない)VFXが曽根監督の持ち味で、根底に流れている大阪人気質のユーモアも合わせて好感度が高い。滝沢馬琴と鶴屋南北の奈落での「虚実」論争がそのまま映画制作に懸ける監督自身のメインテーマと合致しており水面下で必死に足をバタバタさせながらもスマートに一級のエンターテインメント作品に仕上げた力量に拍手!観ていて気付いたのは滝沢馬琴は剣士と犬士を掛けていたのか!ということである。
南総里見八犬伝未読での感想
南総里見八犬伝未読なので、純粋に2つのストーリーを楽しんで鑑賞しました。
現実パートは、寺島しのぶ演じるお百の言動がうっとおしく感じました。お百が没するシーンで、ようやくそれまでの【デフォルトで愚痴こぼしモード】の理由がはっきり裏付けられた感じ。もうちょっと丁寧な猫写があれば、これほど嫌な印象は受けなかったのかも。磯村勇斗と黒木華の演技が、とても良かったです。
物語パートは、原作の読者の方には、端折りすぎて物足りないのだろうなと思いつつ、未読の私には、ストーリーがコンパクトにまとまっていて、とても楽しく鑑賞しました。ただ…少し前から応援している、河合優実の無駄遣い感が…。せっかく良い役者さんなのに、その演技力を全然活かせていないというか、「それだけですか!?」と突っ込みをいれたくなりました。
ともあれ、エンターテイメントとして、楽しい時間を過ごせたと思います。
八犬伝パートが薄味
八犬伝パートが微妙。八人が集まって戦う理由がさっぱりわからん。元のオリジナルがそうなのか? 馬琴&北斎パートがなければ見てられなかった。
一番心に残ったのは鶴屋南北との対論。あれはよかった。「忠臣蔵が虚で四谷怪談が実だ」という解釈はなるほどという感じ。しかもそれが今回の話にオーバーラップしてる構造はよくできてる。
屋根の上の戦闘シーンのCGもよかった。
そのくらいかな。あ、栗山千明を忘れてた。彼女もよかった。
ただまあとにかく八犬伝パートが薄味なのは否めない。動機づけの部分を作り込んでくれてないので八犬士が奮闘したり、斬られたりしてもハラハラしないんだよ。モブキャラが暴れてるだけに見えてしまう。
虚と実があるから
滝沢馬琴先生の「八犬伝」を書き上げた、長い年月の生活「実」と、馬琴先生のネバーエンディングストーリーである「八犬伝」の虚。
「八犬伝」部分を2時間見せられたら、私的には多分疲弊したと思うし、馬琴先生の淡々とした生活を2時間見せられても、飽きちゃうだろうし、虚と実、緩急どちらもあるから、2時間楽しめる作品かなあと。
内野聖陽さんの北斎先生と寺島しのぶさんの馬琴先生の奥さんがとても良い。
欲を言えば、「八犬伝」の殺陣、何とかならないかな。2.5次元の人達なんですか?
ビジュアルは綺麗だけど、殺陣が雑でガッカリ。VFXで何とかしてる感じ。
それでも正義は勝つ物語があってほしい
南総里見八犬伝は、興味はあったけど読めていない。
厨二病を刺激する魅惑的な八犬士と仁義礼智忠信孝悌の玉。劇中ではダイジェストだったけど、ファンタジー作品の古典とも言えるワクワクする作品だと思えた。
物語の中でくらい正義が勝ってほしいというのも共感。まあ正義は人それぞれだと思うけども。
荒くれな北斎さんは若干イメージと違ったし、虚と実が交互にくる感じは少し平坦にも感じたけど、息子さん奥さんとの話、お嫁さんが引き継ぐ実話はすごいなと思えた。
馬琴と北斎
実のパートの役所さんと内野さんが同じシーンで
演技をしているというだけですごいし、キャストも豪華でした。
でも、八剣士を描いた虚のパートが全く魅力的ではなくて、
八剣士を演じている俳優さんたちも全然よくないし、
お遊戯みたい。特に親兵衛役の俳優さんが棒読みでビックリ。
ストーリーの流れも時間的に無理があって、かなり強引に
物語を完結させている感じがします。
でも、どちらのパートも女優さんはとてもよかった。
実と虚が一緒になったラストシーンが安っぽくて最悪でした。
正直なところ、馬琴と北斎の関係をもっと掘り下げて
日常生活を描いた方がもっと良い作品になったのでは?
才能を描ききって欲しかった
「実」の馬琴と北斎。馬琴と妻子、嫁。
同じ時代に生きた才能としての尊敬、嫉妬、焦り、苛立ち。
写楽などにも登場して欲しかった。
寺島しのぶさん黒木華さんは良かった。
「虚」の八犬伝はエンタメ過ぎて入り込めなかった。
玉梓の栗山千明さんの迫力はすごかった。
板垣李光人くんの踊り手からの攻撃手は大河のオマージュかパクりか。綺麗ではあったが。
あの時代の才能たちの描き方、また北斎好きとしては柳楽優弥さんと田中泯さんの「hokusai」に軍配を上げざるをえない。
もう一つ言わせてもらうなら水上恒司くんの無駄遣い。
ひと粒で2度おいしい映画
「滝沢馬琴」「南総里見八犬伝」の名前は知っていますが中身は知らなかった。
NHKの人形劇「新・八犬伝」も知っていますが、ほぼ見たことはない。
そんな私にも「こういう人で、こういう作品かあ~」と教えてもらいました。
八犬伝は、ドラゴンボールの元祖ですね。もう200年前にあったんだ。
馬琴の話は、大河ドラマでした。同時代の作家との交友、ライバル心。家族の物語。
1本で2本分楽しめた映画でした。
納得と驚き
「里見八犬伝」…小学校の図書室や図書館で見かけるたびにちょっと気になってたけど、なんとなく読まないできた本。
なんかジャンプの犬の漫画、銀牙?とかぶっちゃって、八匹の犬が主人公のイメージでしたが。
滝沢馬琴…八犬伝の作者として現国のテストに出てきそうなキーワードを知ってるくらい。
なので、予告で「八犬伝」を見て、「え、葛飾北斎と知り合いだったの?」とか「あ、犬が物語の主人公じゃなかったんだ」という発見があり、観てみることに。
八犬伝の話しとしては、ものすごく集約した内容なんだろうけど、充分おもしろかった。さすが現国のテストに出てくるほど有名な作品なだけあるな、と。
もしかしたら「里見八犬伝」を読んだことある人には、省略しすぎで気になっちゃう部分もあるのかもしれないけど、初・八犬伝の私は、やっと里見八犬伝の話がわかったし、滝沢馬琴の事も知れたし、とても面白かったです。
そして、さすが役所さん。
内野聖陽も寺島しのぶも黒木華も良かった。
鈴の舞いの踊り子さん、このキレイな人ダレだっけなってすっごい気になったら板垣李光人くんでした。城主同様、完全に騙されたわ。さすが。
あと劇中劇?の歌舞伎役者さん、中村獅童なのも気づけなかった。本職のお姿見るの、久しぶりすぎ…。
偏屈ジジイの生き様
良いところ
架空の世界で虚実が入り乱れるなかで現実逃避とも理想の追求とも取れるこだわりと気概の発露
やっぱり作り物の世界は美形キャラが必須
?なところ
どこまでが史実なんだろ
自他共に認める偏屈かつ創造力豊かなジジイ二人のお話。シーンの移り変わりには「南総里見八犬伝」のカットがきちんと作られて挟まれていて、二つの映画を見たかのような感覚。つい最近でいうと「フォールガイ」を彷彿とさせますね。どちらも一つの作品としてちゃんと作られているのがわかるので、現実の泥臭さと理不尽さが虚構作品内の大団円を補い合って心地よい。
八犬伝の方は美形細身キャラばっかり生き残ってパワー型マッチョが死んでるのは当時も今も人気の方向は同じかと。原作通りだよな?
館山に行った時に舞台になった館山城に行ったけど本人は行ったことないんか。
リアルと非リアル
馬琴と北斎のおしゃべりがリアル界、そして馬琴が書くファンタジー小説内の非リアルを交互に観進めていきます。
八犬伝のストーリーが非リアルなんですけど、すごくギュッと凝縮してるので展開が早すぎます。でも馬琴と北斎の友人としてのやり取りが楽しくて許せちゃう?
ストーリーは面白いと思うんだけど、ちょっと作者の意図が掴めないところがいくつかありました。それも含めてファンタジーと捉えればいいか。
総じて、好きな役者さんばかりで楽しかったです。私は女性ですが、栗山千明さんの妖艶さに惹かれてしまいました。
虚(八犬伝)か実(馬琴の話)に絞ったら
もう少しどうにかなったのかもしれない。
寺島さん、河合さん、役所さん、磯村さん、内野さん、黒木さん等々、錚々(そうそう)たるメンバーが出演していたのに、宝の持ち腐れで終わってしまった。
映画等の文化を支えてくださっているキノグループには感謝しかないが、この失敗を踏まえて、次にはまた素晴らしい作品を作って欲しい。
とは言え、唯一感動した場面はこの方針だからこその場面だった。
「仁義礼智忠信孝悌」をメロディをつけて言える人には物足りなかったことだろう。
馬琴と北斎トークがたまらない
馬琴と北斎。役所さんと内野さんの演技バトルだけでも見応えたっぷり。これだけでも見る価値がある。
馬琴の部分と南総里見八犬伝の部分が交互に来るが、お得感より中途半端に感じたのが本音。
里見八犬伝自体が有名でどうしても比べてしまうので時間的にも致し方ない。
しかし、馬琴の執念は凄まじかった。流石役所さん。
曲亭馬琴伝
『南総里見八犬伝』などで知られる江戸時代の戯作者 曲亭馬琴(滝沢馬琴)を描いた映画。
八犬士の活躍を描いた里見八犬伝の物語パートと
戯作者曲亭馬琴の半生を描いた伝記パートで構成されている。
CGを使った八犬士と彼らの敵玉梓の妖術の対決はなかなか見応えあり。
そして曲亭馬琴のパートでは友人の挿絵師葛飾北斎や他の同時代の文化人との交流の中で
自らの創作する物語の在り方や方向性に思い悩み、
また良好とは言えない家族関係への苦悩も描かれる。
自分の見た印象としてはメインは曲亭馬琴という作家の半生であり、
その作品の内容を説明する上での八犬伝パートだと感じた。
これらが交互に流れるため「里見八犬伝」として見る場合はややテンポが悪く、
里見八犬伝の物語を見たい場合は他の映像作品を見た方が集中して楽しめるかもしれない。
他方曲亭馬琴伝としては彼の眼の病や家族の問題についてかなり細かく描かれており、
役所広司さんの真に迫る演技ともあいまって彼の人物像をよく描き出していると思う。
里見八犬伝の娯楽作品というよりは作者の伝記といった趣の映画でした。
短いレビューでスミマセン。
2024年11月11日
20時15分アポロシネマにて鑑賞。
『抜けば玉散る氷の刃』
1973年、中学2年生の時に見た
NHKの新八犬伝の坂本九ちゃんの
ナレーションを久しぶりに
思い出した。
技ありと技ありの合わせ技で一本
NHK新八犬伝世代としては一応観ておかないとね。
滝沢馬琴の話と八犬伝のストーリー、両方やるって中途半端になるんじゃないの?って思ってたけど、技ありと技ありの合わせ技で一本って感じでした。
間に挟まれる八犬伝のストーリーはダイジェスト版ぐらいの感じでちょうど良かったし、滝沢馬琴の話は如何に長い年月を掛けて制作されたかが分って良かった。
ただ…ラストシーン「パトラッシュもう疲れたよ…」かよっ!ってツッコミ入れたくなった。
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