八犬伝のレビュー・感想・評価
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曲亭馬琴の人生と八犬伝の物語が交互に語られる構成の上手さに脱帽
たいへんに有名な原作ですが、恥ずかしながら未読です。 遥か昔に人形劇で観た登場人物の名前が朧に記憶に残っている程度… 予告編を見て特撮ものかと思い、「微妙だなぁ」とは感じていましたが 「役所広司に外れなし!」の信念で鑑賞しました。 いやぁ良かったです。 「八犬伝」ってこういう話だったんですね。 八犬伝のストーリーも面白いですが、馬琴と同時代の著名な芸術家たちとの交流、家族間の複雑な愛情、晩年の鬼気迫る執筆風景… 馬琴の人生の断片が八犬伝のストーリーと絡まり一体となり観客の心に染みこんでくる。 繰り返します。いやぁ面白かったです。 特撮がしょぼいとか、粗を論えばキリがないですが、八犬士たちの凛々しさと戯作者の迫力に魅せられました。 これを機に重い腰をあげて原作を読んでみようと思いました。
名著『南総里見八犬伝』が28年の歳月をかけて執筆される現実世界(実)と八犬伝の物語の中身(虚)が並行して描かれる、見ごたえたっぷりのエンターテインメント巨編
筆者の滝沢馬琴を演じた役所広司さんとその友人 葛飾北斎を演じた内野聖陽さんのやりとりがとっても楽しく、時に熱く、素晴らしい演技に圧倒される 加えて馬琴の妻を寺島しのぶさん、馬琴の息子の嫁を黒木華さんで脇をかため深みを持たせていて、重厚な名優たちの素晴らしい演技が楽しめます 他方、虚の八犬伝の世界は土屋太鳳さんが凛とした里見家の姫を、ヴィラン玉梓を栗山千明さんが妖艶に演じ、加えて里見家を守る八犬士たちを注目のヤングアクター達が力強く演じ、彼らのアクションシーンも見どころの1つです と、日本最古の傑作ファンタジー小説誕生のドラマと八犬士と呪術使いの闘いを描くスペクタクルアクション史劇の虚と実 入り乱れての149分、最高に面白かったです
見応えはあったが色々と無理が……
あまり多くを期待せずに拝見したためか、思いのほか満足して劇場を後にできました。 八犬伝の誕生と滝沢馬琴の人生を重ねて描かれるため、実際の作品も馬琴パートと八犬伝パートが交互に展開していきます。そのため、テンポはよくないです。 馬琴パートは役者の力量もあり、かなり見応えはあるものの冗長な印象は拭えず、八犬伝パートは演者や演出含めて、もう少し頑張って欲しいところ。 特にクライマックスは狭い空間でのアクションシーンとなり、八犬士たちの派手な衣装と相まって、劇団☆新感線を思い出さざるを得ませんでした。 製作陣の意気込みはわかりますが、これだけの物語を一本の映画にまとめるのはやや無理がありますね。 馬琴パートでの四谷怪談を再現したシーンや馬琴と南北の掛け合いはとにかく見事でした。 八犬伝パートの見どころはなんといっても玉梓役の栗山千明さん。佇まいも貫禄も角川版の夏木マリさんに匹敵する素晴らしい存在感。坂垣李光人さんの女装も凄すぎ。 なんだかんだ言ってますが、楽しませていただきました。
面白い
原作は未読だがなるほどこういうアプローチもあるのかと感心した。 馬琴北斎パートと物語パートの比率もちょうど良く165分という大作だが全く飽きなかった。 物語パートは実際の物語の長さを考えればかなり端折って作られているわけだがその分間延びしなくてスピーディで全体のリズムを崩さない。 原作者は物語自体を伝えようとは思ってないだろうからそれで良い。 対する馬琴パートは役者の力量のおかげもあるだろうが各人のキャラが立っていて実に面白かった。 最後のファンタジーシーンはご愛敬ということで☺
物語の虚と実の両面を巧みに組み合わせた一作
江戸時代の名作小説『南総里見八犬伝』の作者、滝沢(曲亭)馬琴と葛飾北斎の交流を描いた場面が「実」ならば、馬琴の語りによって動き出す八犬伝の世界は「虚」。両者が絡み合って展開する創作世界の愉楽はさらに、物語の持つ「虚と実」の位相が加わることによって更なる深淵へ……。この構成は見事なまでに映画的ですが、これは本作独自の構成というよりも、山田風太郎原作『八犬伝』を踏まえたものです。時代を経て、山田風太郎の語り口の面白さを改めて認識させられるとは……。 日本映画の特撮は、いかに特殊効果をふんだんに用いたところで、ハリウッド超大作と比較するとどうしても技術的、予算的な限界を感じてしまうことが多いんだけど、本作はその「安っぽさ」を逆手にとって、「これはあくまで馬琴の描く空想世界なんですよ!」という見立てをしています。だからこそ、外連味たっぷりの活劇場面を心ゆくまで楽しんで(さすがに本作の設定で「史実と違う!」と批判する人はいないでしょう)、かつ馬琴と北斎の交流の滋味深さを噛み締めることができる仕組みになっています。日本映画にまとわりつく技術的予算的限界をむしろ活用して、物語的な面白さに結び付けている点は、非常に「うまい!」と感じました。 一見本筋との関連が薄そうな、馬琴(役所広司)と北斎(内野聖陽)が『四谷怪談』を観劇し、作者の鶴屋南北(立川談春)と対話する場面。現実と物語の「虚実」についての重要な議論が展開する意味でも興味深いのですが、この鶴屋南北は、本作以前の「八犬伝」の映画化作品である『里見八犬伝』(1983)を手掛け、後に『忠臣蔵外伝 四谷怪談』(1994)を作った深作欣二監督の姿を託したものでは……と感じました。その視点で見ると、鶴屋南北の「虚実」談義がさらにまた味わい深く感じます。 「八犬伝」の世界描写は、奇想天外なアクションの連続のように見えて、犬養信乃(渡邊圭祐)始めとした剣士たちそれぞれが際立つような演出が施されており、その点でも入念な作品作りと感じました。 ほぼ同時公開の『十一人の賊軍』と、アクション映画としての描写の違いをスクリーンで見比べるという、今しかできない稀有な体験を楽しむという手も。そして本作を面白く鑑賞した人には、ぜひとも深作版『里見八犬伝』の鑑賞をおすすめしたいです!
馬琴と北斎と、八犬伝
馬琴の生きる現実の世界と並行して進行する八犬伝の物語自体がほどよくシンクロして興味深い構成。 並行した分、八犬伝の方もう少し見てみたい分量になっていたが、現実世界の馬琴と北斎との頑固者同士のやり取りが面白かった。
華ちゃんがなかなか出てこないのよぉ〜
映画の日に観ました。 瀧澤馬琴と葛飾北斎。北斎漫画ではついこの前、亡くなってしまった西田敏行が滝沢馬琴役だったなぁ。年上女房の役は乙羽信子だったなぁと思い出していました。 春画先生の内野聖陽が北斎役😎 南総里見八犬伝は読んだことも芝居を観たこともないので新鮮だった。伏姫とかも全然知らないし、CGのバカに大きいブチの犬のやつふさ(八房)も知らない。ただ、日女体出身の太鳳ちゃんと絡むんだからあのくらいデカくないと釣り合い取れないなぁと思いましたね。 栗山千明のたまずさ(玉梓)さすがにキレイ。とにかく「八」がたくさん出てきて、 金碗八郎(殿の家来)がはち、はちって呼ばれるもんだから、つい、釣りバカ日誌の釣り船太田屋の八郎も西田敏行つながりで思い出してしまった。釣りバカの太田屋は品川の鮫洲あたり(本当の太田屋は金沢八景)なんだけど、この八犬伝では行徳の旅籠屋の名前が太田屋だったものだから、ついね。原作の旅籠屋の名前は古那屋で犬田小文吾(悌)の実家。なんで太田屋にしたのか???もしかしたら、西田敏行オマージュか?馬琴役は西田敏行の予定だったけど体調が原因で役所広司に交代したのかな?北斎のほうがずっと年上なのに役所広司より一回り齢下の内野聖陽が北斎役。それとも巣鴨のカレーうどん屋(具がないのに高い)と紛らわしいからか??? まぁ、いいか。 栗山千明が夏木マリにみえた。 真飛聖(船虫)はもっとこわい。 悪妻役の寺島しのぶは内海桂子師匠にみえちゃったよ。寺島しのぶと内野聖陽は同い年。役所広司よりひと回り年下。 お路役の華ちゃんには「せかいのおきく」同様に萌えちゃいました🤩 河合優実はなんか時代劇似合わないね(笑)はまじって、ちびまる子ちゃんか? 仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌 の8個の玉。ミスタードーナツのポン·デ·リングとなって玉梓を倒す。 土佐のハチキンならぬ16金。 🎵いざとなったら玉を出せ〜 侍タイムスリッパーのあの顔のながーいギョロ目の俳優 (安藤 彰則)も出てきて、テンションあがった。 殺陣(たて)はやっぱり侍タイムスリッパーに軍配。 役所広司と黒木華ちゃんお目当てで鑑賞。 華ちゃんがなかなか出てこないのよぉ〜 目が見えなくなった馬琴の口述を最後まで書き上げたのは亡くなった息子の嫁のおみちだった。役所広司と黒木華ちゃんのシーンはとてもよかった。 コウメ太夫じゃなくて、寺島しのぶの「チクショー」もすごかったけどね。 【古那屋】 そういえば、内房上総湊にある「こなや」という民宿旅館に釣りで泊まったのを思い出した。アオリイカ、スミイカ釣り。南総里見八犬伝が由来なんだと思う。長浦にあるこやな丸という釣り船店はルアー釣り専門で客は船長の息がかかった地元のYANKEESが多くてとても苦戦した。 この映画では太田屋でホントによかった。
虚と実と
まあ映画自体、虚ですけどね。その中で受ける影響は実だと思っています。 チャイナボックス的な作りの映画でした。 角川版と比べるとエロさもグロさもマイルドな令和版でした。芸術と家族みたいなテーマも面白かったです。
観客を飽きさせない虚と実の描写
この長い歴史の中で八犬伝を舞台にした作品がいくつも制作されていることは知っていて、観たことがあるものもいくつかありました。 自分が生まれる前の作品ばかりですが、特に有名なものや祖父母に教えてもらったものは幼少期に観ていました。 過去に馬琴先生の人生も織り交ぜて制作されたものはあったのでしょうか。 勉強不足で至らない部分がありながらも鑑賞しました。 正直なところファンタジーの要素は面白くても、実の部分である馬琴先生と北斎先生のシーンは飽きてしまうのではないかと思っていました。 しかしそれは杞憂でした。一瞬でも飽きてしまうのではないかと思った自分を叱りたいです。 アクションの多い八犬士と比べ、動きの少ない馬琴先生と北斎先生のお芝居は大変苦労されたと、役所さんと内野さんが仰っているのを拝見しました。 確かに馬琴先生はほとんど動かないため、北斎先生が少し体制を変えたり移動したりしないと同じ画になってしまうんですよね。 ほんの少しのコメディ要素を取り入れつつ飽きさせることのなかったお二人には感服です。 また、八犬士を演じられた皆さんの躍動感には最後まで魅了されました。 存じ上げない方も何人かいて申し訳なかったのですが、それぞれ味があって素敵でした。 個人的には定正役の塩野さんのお名前がビラに記載されていなかったことが残念でした。 というのも迫力と眼力で圧倒する素晴らしいお芝居だったからです。 曲亭馬琴という人間の生き様に最後は涙しました。 逆境や困難に飲み込まれ一度は挫けても、生涯諦めない心を学びました。
イケメン戦隊ハッケンジャー参上!
滝沢馬琴が南総里見八犬伝を執筆する現実パートと、馬琴が北斎に語る八犬伝パートを交互に描く野心作だけど、どこかチグハグで何かすごいもったいない映画でした。映画は、八犬伝の序盤のシーンから始まり、そこから馬琴が北斎に感想を聞く現実シーンにパッと切り返すのが見事です。戯作者と浮世絵師、ジャンルは違っても新進気鋭のクリエイター二人の長年の交流エピソードが、非常に丁寧に作られており好感が持てますし、創作に苦しむ馬琴の姿や家族との関わりを描く現実パートのドラマは見応えがあります。特に奈落の薄暗がりの中で逆さになった鶴屋南北との創作についての息詰まるような論争は、演出と役者の演技のぶつかり合いが凄く全編中の白眉と言えます。一方で、期待の八犬伝パートはイケメン八犬士を揃えて華やかだけど、ファンタジーパートなのにSFXが今の時代にしてはとても粗く安っぽいのでビックリしました。ここは、馬琴のイマジネーションの部分なので壮大で美しいシーンを期待していたけど、とても違和感があり残念。アクションも天守閣の屋根の上でのチャンバラ以外は大したことありませんでした。結局、現実パートと八犬伝パートを別の監督が担当したかのようなクオリティの差が気になり、とてももったいない結果だったと思います。役者では、最初は眉毛が気になったけど役所広司が相変わらず抜群の演技です。ラストの八犬士に迎えられる表情にはウルッときました。内野聖陽は大袈裟な芝居が多くて好きじゃない役者さんだけど、本作では飄々とした感じがハマってました。鶴屋南北役の立川談春は、噺家だけに台詞回しと表情が絶妙で場を圧倒する演技でした。玉梓役の栗山千明、おっかなくてドンピシャでした。
虚実の描写が秀逸
馬琴の日常が「実」、八犬伝が「虚」として交互に展開する。 虚から入ったのでなんだこの映像と思ったが実に入ったら実写風になってて、虚はある意味漫画チックで実は描写がリアル。 実は年月と共に老化していき、虚は崖に落ちても怪我ひとつないし殿様は20年経っても変わらない。 それがわからないとCGとかが陳腐に思えるのだ。 虚がああだから実が大変リアルなる仕掛け。 馬琴の頭で想像したものはあんな虚の彩りだったはず。 北斎画になるといったん絵になるので、再度映像に直すとあんな風になるように設定されてると感じた。 さてさて八犬伝の方は物語だとして、実の方は人生とは何か?を考えてしまう。 家族の悲しいシーンには涙した。 面白い、見てよかった。
若者を信じていれば…?
素敵な良作でした。現実パートも虚構パートもバランスが良く、感動します。 アクションも見応えがあり、衣装も小道具もVFXも凝っている。たぶんほぼグリーンバックだろう映像はご愛嬌。 ただ、この作品が大ヒットするには、若者の口コミを信じる必要があったのではないでしょうか? 今をときめく俳優が勢揃いして好演していながら、ポスタービジュアルは………。 メインストーリーは滝沢馬琴なので合っていますが! 大河で大人気になっている塩野瑛久さんもいきなり出てきてびっくりしました。予告にいましたっけ? お路さんと滝沢馬琴の関係性も、なぜこの描写をこの時代に選んだのか…?どのようにでも解釈できる八ヶ月をなぜそうした描写に…?という疑問が。 製作と配給の問題なのか、集客の問題なのか、早くもスクリーンが減少していますが、今日観て良かったです。 とはいえ、若い世代にとっても面白いもの、観たくなるものを作るつもりでいなければ、せっかく素晴らしいのに細部やPRで失点するのはもったいないな、と思いました。 でも陰陽師0の成功もあり、国内のファンタジー製作力は確実に上昇中なことがわかり、嬉しい限りです。
一粒で二味楽しめる
役所広司は、終始、凄いなあ〜うまいな〜と引き込まれた。 歌舞伎のシーンも興味深かったし、奈落の底での南北と対峙したシーンも滝沢馬琴の信念が強調されて理解も深まった。 虚の部分が物足りないとのレビューもあったが、ファンタジーの世界と思えば、芝居掛かった言い回しも気にならない、と言うか楽しめた。クスッと笑ってしまった場面もあった。また、全体のアクセントになっていたと思う。 滝沢馬琴の生涯を初めて知り、息子・奥さん・息子のお嫁さんとの関わりがよく描かれていた。奥さんのお百が、お路が馬琴の物語を聴写している所に這ってきて「ちくしょう」と言った時、もっと馬琴と関わりたかったのだなと切なくなった。 一つの映画で二つ楽しめて満足。 山田風太郎の原作を読もうと思った。
千葉県民ぜひ!
千葉県民ながら名前は知ってるがなかなか触れることがなかったので見ました。 とても面白かったです。 滝沢馬琴の苦悩や作品作りへの情熱が伝わりました。 磯村勇斗さんの演技も凄く良かったです。
主役2人が偉大なり
さて本作!歴史好きとしては見なければと思い、先日観てきました! やはり役所広司は間違いないなーと再認識。内野聖陽・寺島しのぶも流石です! おかげで黒木華が霞むほどw 8剣士の面々もカッコよく、アクションも見応えがありました!(予告を散々見ていたので、色眼鏡にならず) 何より、和装の土屋太鳳の尊さよ…。なぜ口角があれほど上がるのか!! 映画・読書好きには、虚と実の話は“良く分かるー!”といった感。 是非、歴史物が好きな方は映画館でご観賞ください!
虚実織り交ぜた構成の本作は、2本分を堪能した感じはありますが、どちらももう少し長めで描いて欲しかったです。2部構成ゆえのブツ切り感は否めません!
原作は山田風太郎の同名小説。晩年に失明の苦難に見舞われながらも、1814年から28年の歳月を費やして「南総里見八犬伝」を完成させた滝沢馬琴の情熱を、親友の葛飾北斎との交流を軸に描かれます。さらに、八つの珠を持つ8人の剣士が宿命に導かれて悪に立ち向かうおなじみの物語を、視覚効果とアクション満載で映像化。“実”と“虚”のパートが交互に展開していく2部構成となっています。 ●ストーリー 人気作家の滝沢馬琴(役所広司)は、友人である絵師・葛飾北斎(内野聖陽)に、構想中の新作小説について語り始めます。それは、里見家にかけられた呪いを解くために伏姫(土屋太鳳)が祈りを込めた8つの珠を持つ8人の剣士「八犬士」(渡澄圭祐ら)が運命に導かれるように集結し、呪いと戦うという壮大な物語でした。 その内容に引き込まれた北斎は続きが気になり、度々訪れては馬琴の創作の刺激となる下絵を描くのです。このようにして、2人の奇妙な関係が始まります。 一方、馬琴の妻・お百(寺島しのぶ)は、馬琴と北斎を苦々しく見守り、医師にしたい息子の宗伯(磯村勇斗)と嫁のお路(黒木華)は馬琴を支えようとします。 連載は人気を集め、異例の長期連載へと突入していき、馬琴のライフワークとなりますが、28年の時を経てついにクライマックスを迎えようとしたとき、馬琴の視力は失われつつあったのです。絶望的な状況に陥りながらも物語を完成させることに執念を燃やす馬琴のもとに、お路から「手伝わせてほしい」という意外な申し出が入るのです。実はお路は幼い頃から文字を習っておらず、読み書きができなかったのです。 果たしてどんな過程を乗り越えて八犬伝は完成したのでしょうか。失明してもなお28年の歳月をかけて書き続けた馬琴が「八犬伝」に込めた想いとは…。 ●解説 里見家にかけられた呪りを解くために、8人の剣士が活躍するのが「虚」のパート。実話に基づき、馬琴の半生をたどるのが「実」。こちらのパートでは、馬琴が絵師、葛飾北斎に八犬伝の物語を語り、妻や息子、その嫁との関係が描かれます。この構成は「虚の世界」「実の世界」をシンクロさせていく、原作の山田風太郎の小説通りの内容となっています。 勧善懲悪を芯に、怨念・復讐・信を貫く馬琴の世界を山田風太郎は鶴屋南北まで動員し、実の中の虚、虚に潜む実の世界に足を踏み入れます。本作の監督・脚本曽利文彦も、一筋縄ではいかない二重構造の面白さに共鳴してか、主眼をここに置きました。 「虚」パートのアクショシシーンは、妖気漂う雰囲気が濃厚で、若手俳優らの殺陣も悪くない。「鋼の錬金術師」など手掛けてきた曽利監督による、得意の特殊技術を駆使した撮影は堂に入っています。特に芳流閣の屋根の上での決闘シーンの躍動はスリリングでダイナミックで手に汗にぎる見どころたっぷりな名場面となっている。で圧巻です。けっこうチャンバラシーンも多く描かれていて、時代劇ファンも満足できる出来映えなのです。 さらに怨念と、その退治のためのアクションと、秒単位の見せ場を作り出すデジタル領域のアートワークは見事で、栗山の演じる怨霊となる玉梓のおぞましさがまた格別で、悪と毒と恨みを凝縮させたすさまじい名演でした。 馬琴の「南総里見八犬伝」やNHKの人形劇「新八犬伝」などに親しんだ経験があれば、タイトルを聞いただけで、講談調の活劇を期待することでしょう。実際、エンターテイメントとして十分に見ものですが、それ以上に興味深いのは、馬琴の創作の様子を描いたパートです。 やはり本作の新味は“実”のパートにあります。 馬琴の壮大かつ奇抜な想像力に舌を巻く北斎、そんな北斎がさらりと描いてみせる挿絵の下描きに刺激を受ける馬琴。憎まれ口をたたきつつも、互いに敬意を抱く2人の友情を、役所と内野ががっぷり四つの芝居で体現しました。内野が粋人ぶりをユーモラスに、さらに黒木がきまじめさを巧みに表現し、役所の非の打ち所のない演技がそれを受けとめます。 鶴屋南北(立川談春)の「東海道四谷怪談」を見て、馬琴は虚実を巡って苦悩します。馬琴が模索したのは「正義が必ず報われる物語」。八犬伝で描く正義は、悪がはびこる現実を映さず、虚にすぎないのではないか、と。令和の今も、正義が必ずしも報われないことはままあります。いつの時代も正しいものが勝つわけではありません。その不条理を、物語の中で解消しようと馬琴は試みたのでした。 馬琴と鶴屋南北が、劇場の奈落の暗闇で創作をめぐる議論を戦わせる場面は、江戸時代のクリエーターの苦悩に触れることができて興味深いところです。この議論はエンタメ論ともいえ、虚実ないまぜの本作に込められたテーマを分かりやすく伝えてくれます。 ●感想 原作通りはいえ、虚実織り交ぜた構成の本作は、冷水とお湯を交互に飲んだようで何とも落ち着きを感じませんでした。特殊効果を駆使したイケメン剣士らのスケール感たっぷりの活劇と、役所や内野、寺島、黒木ら芸達者たちの深い味わいの演技合戦。交互に見せながら混乱はなく、2本分を堪能した感じはありますが、どちらももう少し長めで描いて欲しかったです。2部構成ゆえのブツ切り感は否めません!
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