「役所広司さんと内野聖陽さんの競演、横綱と次期横綱の大勝負みたいで面白かった」八犬伝 山川夏子さんの映画レビュー(感想・評価)
役所広司さんと内野聖陽さんの競演、横綱と次期横綱の大勝負みたいで面白かった
蔦屋重三郎の生涯を描くNHK大河ドラマ「べらぼう」がはじまって、北斎に歌麿、浮世絵や読本に注目が集まるのが今年2025年だと思いますが、2024年に公開された話題作で、『南総里見八犬伝』を執筆中の滝沢馬琴を役所広司さん、八犬伝の挿絵を頼まれて、馬琴の家に通う葛飾北斎に内野聖陽さん。映画の半分が馬琴の書斎で北斎と馬琴が語り合うシーンで、役所さんと内野さんの長台詞のお芝居が続く感じで、お二人とも入魂の演技で、お芝居というより、ほんとうに馬琴と北斎にしか見えません。
馬琴の描く空想の世界の最大の理解者で、馬琴の脳の中にしか存在しない、見えない世界を可視化する天才北斎のやりとりを聞いていると、事実上の2人芝居なのに、ワクワクが止まらなくなります。馬琴が『南総里見八犬伝』を書き進めていくたびに、劇中で『南総里見八犬伝』の物語が別立てで進行していくので、八犬伝のストーリーも楽しめて、一度に二度おいしいお話でした。
ただ予算が足りなかったのか、南総里見八犬伝のストーリーはもっとSFXを駆使して、派手に大胆に作れるような気もしました。1本の映画で2つの話を同時進行ですすめているスタイルなので、南総里見八犬伝のストーリーはだいぶ端折られており、八犬伝のファンの人から「八犬伝はこんなもんじゃない。もっと!もっと!話が複雑で、面白いんだよ!」と熱弁されてしましました。なので、南総里見八犬伝は、この『八犬伝』続編として、改めて八犬伝を作ってもよかったんじゃないかなと思いました。
八犬伝の剣士を演じた役者さんとしては、渡邊圭祐さん(犬塚志乃)、板垣李光人さん(犬坂毛野)が光ってました。南総里見八犬伝を映画やドラマにするとき、八犬伝の八人の剣士は、その時代時代の若手スターを抜擢するんだと思いますが、令和の時代に選ばれし「8人」の剣士が暴れる姿を見てみたいです。この作品の劇中のストーリーだけだと、エキストラに毛が生えたくらいの活躍しかできなかったのは、もったいなかったかなと思いました。