「八犬士にワクワク」八犬伝 ゆり。さんの映画レビュー(感想・評価)
八犬士にワクワク
八犬伝と言えば、昭和生まれの私はNHKの人形劇「新八犬伝」を思い出します。坂本九さんの語りが軽妙で、辻村ジュサブローさん制作の人形は妖艶で、ちょっと怖かったです。あらすじは全く覚えていませんが、♪”仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌”の一節だけは歌えます。
そしてもう一つは、角川映画の「里見八犬伝」。信乃役の京本政樹さん(なんて綺麗な人、と思った)が「浜路!」と呼んだのが岡田奈々さん、美しい。踊り子(毛野)役は志穂美悦子さん、美しい。でも真田広之さんの役は覚えてなかったです(親兵衛でした)。主役が薬師丸ひろ子さんですからとにかく豪華で派手。ジャックが大暴れです。同じ深作欣二監督の「魔界転生」とちょっとごっちゃになっています。エロイムエッサイム、我は求め訴えたり!
という事で本作ですが、角川映画でお馴染み山田風太郎さん原作です。ただ、角川の「里見八犬伝」の原作は鎌田敏夫さんなんです。どうりで主人公も話も違う、ややこしい。
滝沢馬琴が28年の歳月をかけて書き上げた「南総里見八犬伝」の創作エピソードと、本の中身の伝奇物語が交互に進んでいきます。葛飾北斎との交流が創作意欲を刺激して、壮大な物語が出来上がったという話です。
”虚の世界”と”実の世界”は同じ分量で描かれますが、どちらかに重点を置いた方が良かったかなと思います。私は八犬伝の方が面白かったです。磯村勇斗さんはてっきり犬士かと思ったら違いましたが、8人は良かったです。これだけの物を書いた馬琴は天才と思います。
実の世界の方は中途半端かなあ。北斎や鶴屋南北とのやり取りは面白かったですが、映画では創作に28年もかかった理由がよくわからず、一体どのくらいの分量の話なんだろうとウィキペディアをみたら、98巻106冊でした。それほど膨大なら、28年かかったのも納得ですが、生みの苦しみとかがもうちょっと欲しかった一方で、要らない描写が結構ありました。
本作では妻は悪態ばかりつき、息子は病弱だし影も薄い人物。馬琴も晩年は目が見えなくなって、息子の妻が字を覚えて聞き書きで執筆を引き継いだ話になっていました。
でも土岐村という苗字と路(みち)という漢字の名前を持った女性が漢字を全く知らないとは信じがたく、自分の夫が仮名を振った原稿を全て(その時点で数十巻あります)読んだなら、分からない字を聞く事はあったとしても、馬琴がへんやつくりを一から全部教えたというのは、大袈裟な作り話ではないかと思います。もし、「うちの嫁はろくに字も知らなくてね」なんて言われていたとしたら、お路さんがお気の毒ですね。
天才作家の話を無理に家族の絆みたいな話に持っていくこともないのに、と思います。
NHKの人形劇の主題歌は坂本九さんでは無かったと思っていましたが、♪仁義礼智~は挿入歌でポニージャックス、主題歌(エンディングテーマ)は九さんでした、記憶違いです。