劇場公開日 2024年10月25日

「虚実織り交ぜた構成の本作は、2本分を堪能した感じはありますが、どちらももう少し長めで描いて欲しかったです。2部構成ゆえのブツ切り感は否めません!」八犬伝 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5虚実織り交ぜた構成の本作は、2本分を堪能した感じはありますが、どちらももう少し長めで描いて欲しかったです。2部構成ゆえのブツ切り感は否めません!

2024年11月1日
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鑑賞方法:映画館

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 原作は山田風太郎の同名小説。晩年に失明の苦難に見舞われながらも、1814年から28年の歳月を費やして「南総里見八犬伝」を完成させた滝沢馬琴の情熱を、親友の葛飾北斎との交流を軸に描かれます。さらに、八つの珠を持つ8人の剣士が宿命に導かれて悪に立ち向かうおなじみの物語を、視覚効果とアクション満載で映像化。“実”と“虚”のパートが交互に展開していく2部構成となっています。

●ストーリー
 人気作家の滝沢馬琴(役所広司)は、友人である絵師・葛飾北斎(内野聖陽)に、構想中の新作小説について語り始めます。それは、里見家にかけられた呪いを解くために伏姫(土屋太鳳)が祈りを込めた8つの珠を持つ8人の剣士「八犬士」(渡澄圭祐ら)が運命に導かれるように集結し、呪いと戦うという壮大な物語でした。
 その内容に引き込まれた北斎は続きが気になり、度々訪れては馬琴の創作の刺激となる下絵を描くのです。このようにして、2人の奇妙な関係が始まります。
 一方、馬琴の妻・お百(寺島しのぶ)は、馬琴と北斎を苦々しく見守り、医師にしたい息子の宗伯(磯村勇斗)と嫁のお路(黒木華)は馬琴を支えようとします。

 連載は人気を集め、異例の長期連載へと突入していき、馬琴のライフワークとなりますが、28年の時を経てついにクライマックスを迎えようとしたとき、馬琴の視力は失われつつあったのです。絶望的な状況に陥りながらも物語を完成させることに執念を燃やす馬琴のもとに、お路から「手伝わせてほしい」という意外な申し出が入るのです。実はお路は幼い頃から文字を習っておらず、読み書きができなかったのです。
 果たしてどんな過程を乗り越えて八犬伝は完成したのでしょうか。失明してもなお28年の歳月をかけて書き続けた馬琴が「八犬伝」に込めた想いとは…。

●解説
 里見家にかけられた呪りを解くために、8人の剣士が活躍するのが「虚」のパート。実話に基づき、馬琴の半生をたどるのが「実」。こちらのパートでは、馬琴が絵師、葛飾北斎に八犬伝の物語を語り、妻や息子、その嫁との関係が描かれます。この構成は「虚の世界」「実の世界」をシンクロさせていく、原作の山田風太郎の小説通りの内容となっています。
 勧善懲悪を芯に、怨念・復讐・信を貫く馬琴の世界を山田風太郎は鶴屋南北まで動員し、実の中の虚、虚に潜む実の世界に足を踏み入れます。本作の監督・脚本曽利文彦も、一筋縄ではいかない二重構造の面白さに共鳴してか、主眼をここに置きました。

 「虚」パートのアクショシシーンは、妖気漂う雰囲気が濃厚で、若手俳優らの殺陣も悪くない。「鋼の錬金術師」など手掛けてきた曽利監督による、得意の特殊技術を駆使した撮影は堂に入っています。特に芳流閣の屋根の上での決闘シーンの躍動はスリリングでダイナミックで手に汗にぎる見どころたっぷりな名場面となっている。で圧巻です。けっこうチャンバラシーンも多く描かれていて、時代劇ファンも満足できる出来映えなのです。 さらに怨念と、その退治のためのアクションと、秒単位の見せ場を作り出すデジタル領域のアートワークは見事で、栗山の演じる怨霊となる玉梓のおぞましさがまた格別で、悪と毒と恨みを凝縮させたすさまじい名演でした。
 馬琴の「南総里見八犬伝」やNHKの人形劇「新八犬伝」などに親しんだ経験があれば、タイトルを聞いただけで、講談調の活劇を期待することでしょう。実際、エンターテイメントとして十分に見ものですが、それ以上に興味深いのは、馬琴の創作の様子を描いたパートです。

 やはり本作の新味は“実”のパートにあります。
 馬琴の壮大かつ奇抜な想像力に舌を巻く北斎、そんな北斎がさらりと描いてみせる挿絵の下描きに刺激を受ける馬琴。憎まれ口をたたきつつも、互いに敬意を抱く2人の友情を、役所と内野ががっぷり四つの芝居で体現しました。内野が粋人ぶりをユーモラスに、さらに黒木がきまじめさを巧みに表現し、役所の非の打ち所のない演技がそれを受けとめます。
 鶴屋南北(立川談春)の「東海道四谷怪談」を見て、馬琴は虚実を巡って苦悩します。馬琴が模索したのは「正義が必ず報われる物語」。八犬伝で描く正義は、悪がはびこる現実を映さず、虚にすぎないのではないか、と。令和の今も、正義が必ずしも報われないことはままあります。いつの時代も正しいものが勝つわけではありません。その不条理を、物語の中で解消しようと馬琴は試みたのでした。
 馬琴と鶴屋南北が、劇場の奈落の暗闇で創作をめぐる議論を戦わせる場面は、江戸時代のクリエーターの苦悩に触れることができて興味深いところです。この議論はエンタメ論ともいえ、虚実ないまぜの本作に込められたテーマを分かりやすく伝えてくれます。

●感想
 原作通りはいえ、虚実織り交ぜた構成の本作は、冷水とお湯を交互に飲んだようで何とも落ち着きを感じませんでした。特殊効果を駆使したイケメン剣士らのスケール感たっぷりの活劇と、役所や内野、寺島、黒木ら芸達者たちの深い味わいの演技合戦。交互に見せながら混乱はなく、2本分を堪能した感じはありますが、どちらももう少し長めで描いて欲しかったです。2部構成ゆえのブツ切り感は否めません!

流山の小地蔵