「南房総に経済効果を!」八犬伝 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
南房総に経済効果を!
この映画、意外と評判が良くて少々驚いている。
確かに、役所広司と内野聖陽は二人の特性がうまく役に溶け込んでいて素晴らしいし、画的に見応えある場面もいくつかあって力作だとは思う。
だが、「南総里見八犬伝」のダイジェストなのか、曲亭馬琴の裏話なのか、どちらも中途半端で表面的だと私には感じられた。
VFXももう少しなんとかならなかったのかという印象。特に冒頭に出てくる妖犬・八房のCGはかなり浮いていた。
監督・脚本の曽利文彦は私より2歳下の同世代。つまり、あのNHK人形劇「新八犬伝」がすり込まれた世代だ。あの一大活劇を今のVFX技術で実写化したいと考えたことは理解できる。
しかし、彼はCGクリエイター出身でVFXの専門家だったはず。あれでよいのだろうか…。
キャスティングに資金が費やされた事情があるのかもしれないが。
そして、またかと思うのだが、宣伝に「実話」という言葉が使われている。あまりにも無責任なキャッチコピーに閉口するばかりだ。「実話」の意味を知っているのだろうか…。
山田風太郎の小説「八犬伝(傳)」は、「南総(總)里見八犬伝(傳)」を要約・再構成した〝虚〟と、葛飾北斎を絡ませながら曲亭馬琴の創作風景を描写した〝実〟が並行して交互に展開する。(〝実〟といっても決して「実話」ではない)
それを構成もそのままに字面をなぞって映像化していて、工夫がない。小説の筋を追うのが精一杯なのだ。
あの構成のまま映画化するなど土台無理な話だろう。
まず、「南総里見八犬伝」の長大さが説明できていない。この物語に精通している山田風太郎だから効果的な文章で要約しているが、その文章を映像化したのでは八犬士の列伝が省かれてしまうから、当然といえば当然の結果だ。
ならば、この戯作を生み出す馬琴の執筆活動をエキサイティングに描けばよかったのにと、私は思う。
しかし、そっちは馬琴の家庭の事情ばかりを見せて、創作の苦悩が見られない。「南総里見八犬伝」がどれほどの大長編であるかが示せていないうえに、28年もの歳月がかかった産みの苦しみがないのだ。
視力を失った晩年の馬琴がこの大長編を書き上げるクライマックスでは、単に文字を書くことの苦労しかなかったかのようだ。しかも、完成させることに執念を燃やしたのは馬琴自身ではなく嫁のお路の方だったように見えた。なのに、そのお路の背景はほとんど見せられていない。
鶴屋南北との問答も単に一つのエピソードに過ぎない扱いで、南北の言葉が馬琴の中でリフレインはするが、勧善懲悪の物語を書くことに迷いが生じるとか、逆に奮い立つなどの影響はない(あったかもしれないが印象に残らない)のだ。
北斎が馬琴の話を聞いて絵を描く。
だが、その絵のシーンは先に映像で見せられている。
例えば、役所広司と内野聖陽の演技力に頼って、馬琴があらすじを言葉で語り、同時に北斎が絵を描く、そしてアクションの場面で北斎の絵からVFXを駆使した映像に遷移する…みたいな方法で、「南総里見八犬伝」の部分は芳流閣の決闘などのアクションシーンに絞り込んではどうだったか。
北斎の絵によって馬琴が更にイメージを広げて筆が走る…みたいな。
…あ、これでは旬の俳優たちに八犬士を演じさせるコンセプトが成り立たないか。
ツラツラと文句を重ねたが、若い世代には活きのいい人気俳優たちによる八犬士は魅力的だろうし、八犬伝に興味を持ってもらうには上々の作品だといえる。
八犬士の配役はみな違和感がなく、明るい剣士なのが今風で良い。犬坂毛野の板垣李光人には驚いた。
玉梓の栗山千明が一番の力演だったと思う。
網乾左母二郎の忍成修吾は、さもしさが滲み出たベストキャスティングで、あっけない最期がもったいない。
さて、なぜ「南総里見八犬伝」ではなく山田風太郎の「八犬伝」を映画化したのか解らないのだが、うがった見方をすると山田風太郎が短く再構成してくれていたから…か。
なんなら、同じ山田風太郎の「忍法八犬伝」を映画化した方が、手垢もついていないし、アクションに特化できて面白かったのではないか…と、思ったりして。
また、館山市が活気づいている効果も千葉県民としては喜ばしい。南房総市から鋸南町まで一緒に盛り上がってくれれば、なお嬉しい。
私はこの10年、千葉で働いてたので、南房総とか、館山とか君津、木更津という括りでの地元愛が、ほんの少しですが、理解できます。
大多喜の本多忠勝、南総の里見氏など大河ドラマ化して欲しいという熱もまだまだありそうですよね。
共感&コメントありがとうございます。
原作には馬琴とお路をバッテリーに見立てた文が有り、自分なんかちょっとうるっと来てしまうのですがそこ迄描けてたとは思えませんね。新八犬伝は人形劇、連続ドラマと小説の映像化として大成功だったと今にして思いますね。
知識に裏付けされた数々の提言。
「南総里見八犬伝」を愛すればこそ、
もっともっと原作は素晴らしい・・・
気持ちがひしひしと伝わってくる
素晴らしいレビューですね。
拙レビューに共感ありがとうございます。
恐縮です。
作品に対しての評価は人それぞれで良いと思います
この作品に限らずKazzさんの映画への思いが伝わるレビューがとても好きです
地元への愛など共感するところいっぱいです
馬琴さんとお路はもっと見たかったですよね
コメントありがとうございます。
私の共感ポイントは、賛否は個人の自由ですので、レビューとして論理的に自己主張していると評価できるものに付けています。
ご心配なく。
ー以上ー