「個人的には現実パートのみで、脳内映像は北斎の絵だけでも良かったように思った」八犬伝 Dr.Hawkさんの映画レビュー(感想・評価)
個人的には現実パートのみで、脳内映像は北斎の絵だけでも良かったように思った
2024.10.26 イオンシネマ久御山
2024年の日本映画(149分、G)
原作は山田風太郎の小説『八犬伝』
滝沢馬琴が「八犬伝」執筆に至った裏話を描く時代劇(&アクション映画)
監督&脚本は曽根文彦
物語の舞台は、文化11年頃の江戸(神田明神下付近)
戯作者として名を馳せる曲亭馬琴(役所広司)は、親友で絵師の葛飾北斎(内野正陽)に新たな戯作の話をしていた
それは、里見家の当主・義実(小木義光)に恨みを持つ者が家を滅ぼそうとする物語で、それを阻止するために、里見家の亡き娘・伏姫(土屋太鳳)が残した遺言を叶えるというものだった
伏姫は死の間際に自身の数珠に念を込め、それは日本各地へと散らばっていった
その珠を持つ者を集めれば、里見家に降りかかった呪いを打ち消せるという
この話を聞いた北斎は、その戯作に興味を示し、わずかな挿絵を描いていく
馬琴は北斎が挿絵を描いてくれるなら連載をしたいと考えていたが、北斎にはその気がなく、結局は北斎の息子がそれを担当することになった
映画は、馬琴の脳内イメージパートと現実パートが行き来する流れになっていて、その脳内イメージをササっと挿絵にしてしまう北斎が描かれていく
「絵にはならない」と言いながらも「八犬伝」を絵にする北斎だったが、馬琴の晩年にて、息子・宗伯(磯村勇斗)の妻・お路(黒木華)が彼の代わりに文章を書くシーンでは「絵になる」と言っていた
北斎の中にある絵は「実」を描くもので、彼が描く「八犬伝」は「虚」ゆえに後世に残したくなかったのだろう
物語は、馬琴の晩年の「八犬伝」執筆時代のみに特化していて、全98巻ある「南総里見八犬伝」はごく一部のみが語られる
「八犬伝」としては「八犬士が揃うまで」
みたいなところがあって、虚構パートの玉梓(栗山千明)を倒すところまでは描いていく
この虚構パートの終わりまで描く必要があったのかは何とも言えず、犬士集結ぐらいで終わらせてもちょうど良かったかもしれない
また、お路が代筆したというパートが不要とは思わないが、いきなり登場して、いきなり代筆しているし、サラッと字幕で「文字を書けなかったお路が馬琴と同じように書けるまでになっていた」と説明するのはナンセンスなように思えた
登場人物がかなり多く、名前のついているキャラが50名以上いる
また、一人二役をしている役者がいるのだが、ググって調べられる範囲を超えているので、パンフレットでは「全キャラクター相関図」を作って欲しかったくらいである
細かなキャストに関しては「四谷怪談」「仮名手本忠臣蔵」「南総里見八犬伝」に詳しい人ならエンドロールを読んで理解できると思うが、かなり難易度が高いのではないだろうか
いずれにせよ、創作をなぜ行うかという哲学的な部分とか、勧善懲悪の是非、写実主義と理想主義の対決みたいな部分は面白かった
歌舞伎観劇後の奈落にて、狂言師の鶴屋南北(立川談春)と語る部分はとても面白く、ジジイ三昧の現実パートの方が深みがある
「八犬伝」のアクション時代劇部分はCGに頼りすぎている部分と、キャラクターを描き切るには時間がなさすぎるので薄味になっている
最後の方の集結部分は結構無理やりな感じに仕上がっていたので、尺のバランスを考えると、無茶なシナリオを書いたんだなあと思った
編集せずに全部上映したら、おそらく5時間くらい超えて来そうな気がするので、良いとこどりが裏目に出ているようのかもしれません