劇場公開日 2024年7月12日

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「名もなき男の弛まぬ生き様が切々と訴えかけてくるもの」ある一生 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5名もなき男の弛まぬ生き様が切々と訴えかけてくるもの

2024年7月13日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

彼は何か巨大なことを成した偉人でもなければ、陰ながら歴史を支えた功労者というわけでもない。ひとつの人生を打算なく、ただひたすら必死に生き抜いた男だ。本作は、時代という縮尺で人生を推し量るのではなく、むしろ彼の生涯を通じて激動の時代そのものを見つめていく。悲しみや苦しみはあった。神が与えた試練、時に無慈悲に奪い去られたものも大きかった。しかし彼は天を罵倒したりせず、ただひたすら前を向き、傷つきながらも歩みを進め、妻への手紙を書き綴る。その生き様を見る限り「悔い」など何一つないのだろう。真っ直ぐな目線に突き動かされるかのように、観ている我々も自らの生き方を省みたくなるような問いかけが、この荘厳な力作には無言のうちに込められているように感じた。背景を彩るアルプスの風景(人生のメタファー)が厳しくも雄大で美しい。作品のところどころに映し出される十字架もまた、彼を見守る道標のように崇高な印象を残す。

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牛津厚信