「非常に秀逸なアジテーション映画。」HOW TO BLOW UP 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)
非常に秀逸なアジテーション映画。
監督が、本作と同様に環境活動家によるテロ行為を扱った『ナイト・スリーパーズ』を挙げていて、真逆の映画を作ろうとしたという意図になるほどと思わされた。自分はテロ行為には反対するが、確かにテロリストを扱った映画は、最終的に自分たちのやったことにしっぺ返しをくらって「ほら、悪いことは割に合わないよね」というイソップ童話みたいな教訓話になりがちだ。テロを行う側にも事情があることは描きつつ、たいてい彼らは犯罪者として退治されるか自滅する。結果的に、「悪いことはよくない」というシンプルな倫理観の話になってしまう。
本作は、爆破テロを犯罪映画の金庫強奪計画のように描いて見せる。映画だからハラハラさせる展開もあれば、思わぬピンチも訪れるし、仲間の中に裏切り者がいることも示唆される。どれもジャンル映画としては定番の描写で、こちらも安心してエンタメとしての面白さに乗れてしまう。
しかし観客としてつい考えてしまう。これは犯罪行為なんだから、最後にはしっぺ返しを食らうんだろうなと。その倫理的な結末を予測できてしまうことこそが、われわれがフィクションのお約束にとらわれてしまっているから。しかし本作では「すべてが計画どおりに進み、テロが成就して、(幾人かは)計画通りに逃げおおせる」というテロ側にとってのハッピーエンドが訪れる。
この映画がテロを賛美しているとは思わないし、彼らの行為に付随する弊害についてはちゃんと言及されている。ただ、「テロの背景にある問題を語ること、テロの是非(さっきも書いたように筆者は絶対否定派ですが)を語ること」と、「テロリストの計画が失敗するか成功するか?」はまったく別のトピックなのだ。本作はそこが一緒にされがちな矛盾を突きつけてくる。犯罪映画として面白くできているからこそ、われわれはまんまと、この主人公たちをどう捉えていいのかモヤモヤが止まらなくなるのである。