「◇ サイケデリック伝説」シド・バレット 独りぼっちの狂気 私の右手は左利きさんの映画レビュー(感想・評価)
◇ サイケデリック伝説
1967年、サイケデリックムーブメントのピークを迎えた年。その象徴とも言えるビートルズの名作『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』が製作されていた隣りのスタジオで、ピンクフロイドのファースト・アルバム『夜明けの口笛吹き(The Piper at the Gates of Dawn)』が作られました。
当初、ピンクフロイドは、シド・バレットのワンマンバンドとされてました。ドラッグによる幻覚を再現したサイケデリック・ロックの世界に飲み込まれるように、デビュー間もなくLSD過剰摂取による性格破綻を理由に、彼はバンドを去ることになります。
その後のピンクフロイドはサイケからプログレへと展開して商業的にも成功を収めます。特に『狂気』(The Dark Side of the Moon)1973はロック史に残る名盤の一つとされます。売り上げ5000万枚以上、Billboard 200に15年間(741週連続)にわたってのランクインはギネス記録でもあります。
大仰でドラマ仕立て、過度に技巧的なピンクフロイドの長い楽曲。中心に深い闇を内包していて、ブラックホールのように引き込まれる魔術的な力を秘めているようで、その魔力にシドバレットの影が残存し続けていることに改めて気付きます。
一人の繊細過ぎる天才芸術家を懐かしむ数珠繋ぎのインタビュー、内面風景を象徴する幻想的なイメージ映像。確かにそこにシド・バレットは存在していたはずなのに、どこか虚に儚く感じます。光と影、天才と狂気の両義性を持つサイケな男の神話化の物語。人の心の奥底の中心にある空洞-空虚感と共鳴するようなドキュメンタリーでした。