劇場公開日 2024年12月27日

「景観を刷新してもなお立ち上ってくる、都市の随所に埋め込まれた悲劇の記憶をとらえた一作」占領都市 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0景観を刷新してもなお立ち上ってくる、都市の随所に埋め込まれた悲劇の記憶をとらえた一作

2024年12月30日
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鑑賞方法:映画館

まず4時間越えの上映時間に躊躇を覚えてしまう人も多いのでは。予告編は、流れる現代のアムステルダムの映像の美しさとそこに被さるナレーションの不穏さがなんとも印象的ですが、本編はこの予告編の形態が4時間以上続くと考えてもらってまず間違いないです。

おそらくマックイーン監督は、あえてアムステルダム各所を捉えた映像の空間配置も、ナレーションの時間軸もシャッフルしているため、明確な起承転結は存在せず、時にどれだけの時間が経ったのか、時間間隔を見失いそうにすらなります。

マックイーン監督が本作で時間をかけて描いたのは、人々が往来し、穏やかに生活する(といっても政治デモが結構盛んだけど)アムステルダムの都市の各所に埋め込まれた、わずか80年ほど前の迫害と流血の記憶です。

作中に頻出する"demolished(破壊された、撤去された)"という言葉が示すように、都市は破壊と再生、そして変質を繰り返す場でもあり、古い記憶は棄却され地面の奥底に埋め込まれていきます。そこには未来への前進という肯定的な側面があることは十分理解できるものの、この言葉を聞くたびに、暗い過去を今と切り離し、抹消してしまいたい、という断固たる都市そのものの強い意思が伝わってくるようで、軽い衝撃が走ります。

そうして清潔で洗練されたアムステルダムという都市の空気を人々は享受しているわけですが、果たしてかつての巨大な悲劇を現実の出来事としては忘れていいのか?とマックイーン監督は問いかけます。本作の時間的な厚み事態が、いかに忘れてはいけない記憶が「歴史化」しようとしているのかを知らしめているようです。

なかなか鑑賞には心構えが必要な作品ですが、こういったかなりの時間を要する作品こそ、劇場で観るべき作品と言えそうです。

yui