国宝のレビュー・感想・評価
全2026件中、861~880件目を表示
あくまでも「映画」として歌舞伎の世界を描いた作品として、稀有な完成度を持った一作
任侠の道から歌舞伎の世界に入っていった男の生涯を描いた物語は、きりの良いところで時間軸がジャンプする、という『ヤクザと家族 The Family』(2021)とも相通じる構成により、「歌舞伎」という言葉の重々しさとは裏腹にある種の軽やかさを伴って進んでいきます。
そのため、3時間近い上映時間にもかかわらず描くものを絞り込んでいる、という感があり、中だるみを感じる余地もないどころか、どことなく全体的にダイジェスト版を観ているかのような印象すら受けてしまいます。
本作の肝である歌舞伎の演目の描写は、世間の評価通り確かにさすがの一言。もちろん、主役の吉沢亮と横浜流星による、高名な歌舞伎役者も納得の堂々たる歌舞伎役者ぶりが絶賛に値するのはもちろんですが、撮影監督のソフィアン・エル・ファニのカメラワークも注目に値します。
女形の表情を息遣いまでも聞こえてくるようなクロースアップで捉えたり、舞台背景側から役者の背中、観客席を捉えるというカメラアングルなど、どこまでも映画的な文法に則って撮影しているのに、「歌舞伎の舞台を体感した」と観客に感じさせてくれます。
裏返して言えば、歌舞伎の演目の全体像を観たい、という期待を抱いてしまうとちょっと不満を感じるかも、ですが。
吉田修一の原作が本作の物語的な柱を確固としていることは間違いありませんが、その上で歌舞伎の映画化、ではなくあくまでも映画として歌舞伎を描く、李相日監督の作劇が見事に一貫している点が、本作の完成度を一層高めていると感じました!
期待しすぎました
とても映像も歌舞伎も素敵で見入ってしまいます…が… 主役が悲劇のヒロインに見えてしまった。そりゃ誰だって人生山あり谷あり… でも結局「芸は辛くてもやるもの」を口実に、家族はおいてけぼり。それでもステージで拍手喝采され評価される人は素晴らしい、的な表現が、世の中の少子化に拍車をかけているのでは。なんて…すいません、ステージから降りて絶賛育児中の母親からすると、主人公のように奥さんや子供を捨てて自分の芸に集中できる主役に嫉妬してしまいました。そりゃぁ誰だって最高のステージで最高の演技をして死ねるなら本望だ…確かにいろいろ素晴らしいですが、ステージで光を浴びてないけれど輝きのある人生に注目する映画が観たくなりました。意外と大したことない映画だなというのが率直な感想です。
血と知の闘い
2回目の鑑賞。1度目の途中で又観ようと思いました。理由は歌舞伎シーンの迫力と圧倒。歌舞伎をこんなに長く観たのは初めて。映像と音曲の素晴らしさに身が震えました。二人は相当な修練をしたそうですが、全く驚愕な演技でした。お見事としか言えません。田中泯、さすがダンサーですね、身の熟しに見入りました。「その素晴らしい顔が演技のじゃま」は中々意味深ですね。喜久雄の紋紋は有り難いです。無ければ2人の見分けが付きにくいので。しかし歌舞伎界、良く作品作成に協力しましたね。歌舞伎界の痛いところを突いてるので。2人の最後の共演、幕が降りてからの観衆の拍手喝采シーン、(ライムライト)のラスト、舞台から落ちたチャップリンを演技だと思い爆笑した観客シーンを彷彿しました。
歌舞伎、素晴らしいの一言に尽きる作品でした。
【映画『国宝』は、やっぱり良かった!見ごたえが有った!】
コロナ禍前までは「映画館で年間120本以上観ていた」私ですが、コロナが治まっても「視力聴力の低下と頻尿」で映画館に全く行かなくなっていましたが、ラジオの色々な番組でこの映画を激賞しているので、やっと昨日(7/23)奥さんと地元のユナイテッド入間で観てきました。
❶その日3回目の上映の12:55からの回で席は9割埋まっていました。字幕版ではなかったのでセリフの1割程がよく聴き取れませんでしたが、それでも175分惹き込まれっぱなしの展開で大満足の映画でした。トイレは1回も行かずに済みました。
❷50年前の若い頃、大人気の若い女形俳優の歌舞伎地方巡業を大道具のバイトとして経験していた私は、歌舞伎の大劇場・中劇場の舞台裏の造りや人の動きが見みられる場面が多かったのも楽しめました。歌舞伎界を題材にした「業界モノ」として観るのも面白いでしょうね。
❸この作品がサブスクで観られるようになるのはかなり先になると思うので日本語字幕付きの上映館を探してもう1回観たい!
とても充実した175分間だった
歌舞伎はよく知らないが、話題になっていたから興味があり鑑賞。序盤は物語の始まりが少々(どころではないが)物騒でびっくりした。
最初見てるうちは175分間耐えられるかなあと心配になったが、終盤には吉沢亮さんと横浜流星さんらの演技に夢中になっていた。
175分というのはハードルが高いので、リピはないが非常に良い作品だった。
面白かったです。
原作未読。
3時間という長さでしたが本当にあっという間でした。テンポよく、情報がいい感じに整理されているから見やすいのだと思います。
恐らく書籍の持つ深さやいるだろう他のキャラクターやエピソードを見せるなら前後編でするものかもしれませんが、それは映画よりテレビドラマ向きではないか、と思いました。
映像による舞台の見せ方は、まさに映画館でみるべき作品で、圧巻でした。没入感が素晴らしい。
喜久雄と同じ景色を私達も喜久雄の表情、舞台、観客を喜久雄側から見ることによって見せてもらえる、素晴らしい体験でした。
小さな感想:
上記意見の後でなんですが、喜久雄と俊坊が和解する様をもう少し欲しかった。喜久雄ドサ周り後ですね。その前が丁寧だったのに突然駆け足だったように感じた。(といって、そこやってたら時間かかりすぎだしなあ、と)
渡辺謙さんが女形は、ちょい無理ありそうだから、見せなかったの正解かもなあ、とか思ったり。でも、あの襲名式の演技凄かった。
あと原作未読ですから女性たちがその後どうなったのかは、気になったなあ……特にあのドサ周りにつきあった箱入りお嬢さん。よくやったよ。偉かった。自然な素敵な演技だったと思いました。
横顔がとくに綺麗
前半少しだったのに永瀬正敏さん印象的でした。
芸姑さんの色気も心に残りました。
しゅんぼうは喜久雄をいじめちゃうの?とおもい、排他的なところを見る辛さを覚悟してしまってたのですが、そんなことなくてその点良かったです。
春江は彼女なりの理由があるんでしょうけど、したたかで黒く見えてしまいましたが…入れ墨ほるとき一緒にいるって言ってたのに…
テレビに3人家族で映ったとき奥さん然でドヤって語っておられて…いや、奥さんなんだけど…寺島しのぶさんの横にも普通に座ってるし…いや奥さんなんですけど…でも何その切り替え…わたしには無理で解せなかったです。
渡辺謙さんの晩年のやつれ具合は違和感なく、対して喜久雄は近年になったときの見た目の違和感を大きく感じました。体型もなにか入れてどうにかできなかったのかな(してたのかな?)。綺麗な顔は邪魔も邪魔、て、こういうことなのかな、とそのとき少し思いましたが
綺麗なしゅんぼうと喜久雄の、歌舞伎の演技を充分な時間堪能できて良かったです。
芸道へ真摯に向かい続けること、その儚さと残酷
血と血が交じり逢い、はじめて 流れていく血にこそ、それぞれの一人ひとりの 人生を生き抜く強さが生まれる。
血と血が交じり逢い、はじめて流れていく血にこそ、それぞれの一人ひとりの人生を生き抜く強さが生まれる。
どんな境遇であれ、どんな体格であれ、全身に流れる血は、代々受け継がれていく、性質、体質、風格、個性、本質、体感する温度は、全て脈々と受け繋がれていく血脈所以、体内に流れていく血があればこそ。この映画に出てくる人は血に苦しみ、血に嘆き、血に救われる。血に迷い、血を求め、翻弄される女達。
実家の料亭で、歌舞伎の真似をしていたところを、
見染められた喜久雄(吉沢亮)と、歌舞伎役者の息子に生まれた俊介(横浜流星)。やはり、吉沢亮は、ダークサイドの中にも、儚さと、強さがある、影ある役が似合う。
歌舞伎の舞はさることながら、歌舞伎役者と見間違えるほど、俳優、吉沢亮の表情、眼差し、舞が、なんとまぁ、美しいこと。横浜流星の卒なくこなす舞も素敵だが、やはり、大御所の人間国宝万菊を演じる、田中泯の存在感、誰をも黙らせる風格たるやいなや。
あっぱれです。
中でも、2人の人生のターニングポイントを描く、歌舞伎と現実を畳み掛けるシーンは、映画でなければ描けない美しさと、儚さに胸が締め付けられました。
日本アカデミー賞主演男優賞は吉沢亮で間違い無いですが、助演男優賞は田中泯で間違いないでしょう。それくらい、素晴らしい演技というか、存在感で震え上がりました。
直接見ずとも、語りかけるシーンや、目力!!
世界的に上映しても、拍手喝采でしょう。
吉沢亮にお腹いっぱい、プロ野球の優勝ビールかけのように、お酒を浴びせてあげたいくらい、良く頑張りました!って、拍手してあげたいです。
一貫した[美しさ]の探求
評判通り、見応えのある映画でした。
ドラマも良いですが、美しさへの探求が様々な角度で表現されていて、映画自体が崇高なものに昇華してると感じました。
美しさとは、綺麗さだけではない、泥臭さや、複雑さ、それらが織りなす総合的な景色だと感じました。
まさに日本映画です!
期待しなければ面白い
ネトフリとかにあるクオリティはそこそこ良いが中途半端な作品の一つみたい。映画としての映像美がありそうで全くなく、音楽も良さそうで平凡。歌舞伎のシーンでの被せる下品なBGMは残念。それからここは素晴らしい演技だよ!というのを伝えられないから露骨な説明的な演出。屋上でのどっかのアメコミキャラのパロディみたいなシーンは安易過ぎて笑っちゃう。最後らへんの曽根崎心中?は事情の知らない観客が観たらガチャガチャした下手な演技で感動なんてしないだろうし演出が一貫して子供だまし。主役の二人も果たして演技が上手かったのか謎、上手くこなしてはいたとは思う。暴論だけど3時間子役だけで見たかった。舞妓さんは本物?取り敢えず見上愛の舞妓さんはめっちゃ合ってたな
感情移入無し。歌舞伎に興味が無いので3時間の拷問。
伝えたいことはわかる。
芸を極めるには何かを犠牲にしたり利用したりすることがある。
いくら才能があっても世襲に負けることがある。
でもそれってどんなジャンルでもあり得ることでしょう。
そんなもん当たり前やん、という感想しかない。
色んな事をしてそこまでして見たかった景色、彼にとってはそれが
大事だったんだろう。そのシーンも共感が全く無かった。
感情移入が全く無かった。
観ている間、ずっとこの先何かクライマックスのシーンが
あるのだろうと我慢して観ていたが、何も無いまま終わった。
本当に皆これを面白いと思っているのか。
あと「いかにも感動するでしょう系のBGM」を
これでもかと挟んでくるが、シーンと全く合ってない。
~なぜつまらなかったか~
さて、歌舞伎や能のような伝統芸能が細々と続いているのは
それを好きな人が少数ながら居てお金を落とすから。
人には多様性があってエンタメの好き嫌いも十人十色なのは重々理解している
つもりだが、歌舞伎や能のような日本舞踊系の踊りを見ても
その振りや所作が全く美しいと私は思えない。
何が凄いのかわからないし、何なら自分だったらすぐ踊れそうと思う。
早着替えが凄い?マジックとか観たことあります?
それが本当に素晴らしいモノならば、もっとメジャーになっているし
テレビなどのメディアでバンバン取り上げられているはずだ。
それが無い時点で歌舞伎や能は大衆にウケていないことは明白。
娯楽が少なかった時代に持て囃されたが、今となっては極々狭い人たちの間で、もはや宗教のように信仰されているにすぎない。
これは作中にも描かれている。
地方のドサ回りの披露で誰も観ようとしない。
女形を女だと勘違いした男客がキレている。
屋上で吉沢亮が絶望したかのようなシーンがあるが
あれは狭い範囲の客にしかウケない歌舞伎そのものに
絶望したように私には見えた。
本来、歌舞伎の扱われ方ははこうなのであることをまざまざと証明している。
古くからある=良い、のではない。
時代に則して変われなかった、順応できなかった。
だから廃れて他のエンタメに駆逐された。
古くからあるものだから守らねば、は本当に正しいのだろうか?
そういう事実を知っているありきで観ていたので
到底理解できない世界の住人が、
「私、波乱万丈な人生を送ってます!どうですか?!」
と見せられてもな~、という感想。
その苦労、本当に「まともな」苦労なの?
他の世界はもっと厳しいかもよ?
今まで観た映画でワースト3に入る。
若者たちへ伝統芸能を伝えた功績は大きい。
いやぁ秀作でした!歌舞伎のことは詳しくは知らないけど、昭和歌舞伎を深く理解し、憧憬を堪能できました。歌舞伎ならではの女形という稀有な存在に焦点を当て、ストーリーに惹きつける。エンターテインメント要素も充実して、3時間を感じさせないです。
「悪人」や「怒り」で、人間の極限を描いてきた李相日監督は、今作も圧倒的な重厚感とリアリティで人間を描ききる。
映像も素晴らかった。「アデル、ブルーは熱い色」のフランス人カメラマン、ソフィアン・エル・ファニは、日本を俯瞰で見る眼差しがとても新鮮でした。演者の感情の揺れや、しなやかな身体の美しさ、生々しい質感に息を呑みました。光と影の構成も芸術的でした。
「血筋か芸か」というテーマを際立たせたのは、吉沢亮さんと横浜流星さんの妥協のない役作りと、壮絶な演技ですね。身体に染みついた歌舞伎のクオリティは、マスターするのに1年以上もの歳月をかけたらしい。きっと並大抵の努力じゃなかっただろう。それを想うだけで、心が揺さぶられました。
歌舞伎出身の役者ではなく、あえてこの2人がストイックに演じたことが大成功。高校生の観客も目立って、若者たちへ伝統芸能を伝える娯楽作品に昇華させた功績は大きい。若手実力派俳優が揃ってきて、日本映画のこれからが楽しみ。
もちろん、田中泯さん、渡辺謙さん、永瀬正敏さんら、脇を固める大物俳優もさすが。怪物の天才子役、黒川想矢くんの成長ぶりもすごい。今年の日本アカデミー賞は、この作品で総なめになってしまうのでしょうね。
フイルム調の質感で、吉沢亮さんと横浜流星さんの繊細な演技と、ダイナミックな舞を楽しむには、絶対スクリーンで見た方がいいですよ。静粛な緊張感を観客同士で共有するのも、劇場映画の楽しみですしね😊
なんというか
歌舞伎の素晴らしさ。
この作品1つにいろいろなテーマがちりばめているなと思いました。血筋実力、天部の才能、歌舞伎と言う日本の伝統的文化、周りの環境の変化、自分が置かれる環境。吉沢亮、横浜流星、高畑充希、その他様々なタレントさんの演技がとても好印象でした。また歌舞伎の演劇のシーンもしっかりと演じているのだと思いびっくりしました。
自分の中で結構満足度の高い作品にはなりましたが、3時間もあってなかなか集中力を維持するのが難しかったです。ストーリーの中での月日の過ぎ方がかなり早くこのスピード感で行くのであれば、2部作にしても全く問題はなかったのではないかなと思います。森七菜さんの人が最終的にどうなったのかいや僕の見逃しかもしれませんが、気になる点があったので、もう一度見たいなとは思いますが、なかなか3時間の映画を集中してみる事は難しいかなと感じます。総じてかなり良い作品好きな作品でした。
ー「景色」というのは、全てをも犠牲にした人間が何か一つを極めた先で...
ー「景色」というのは、全てをも犠牲にした人間が何か一つを極めた先で見られるものだ。「芸」以外のものを犠牲にし、「悪魔」とまで取引をして日本一の芸者になった喜久雄は本当に幸せだったのだろうかー
私は「歌舞伎」という日本に古くから伝わる伝統芸能に触れたことも、目にしたこともなかった。この映画を観るにあたり、私と同年代を含む多くの人が「歌舞伎を見たくなる映画だった」と評していた。3時間という長尺の映画を鑑賞したことがなく、最後まで座っていられるのか不安だった。しかし、そんな不安とは裏腹に、3時間はあっという間に過ぎていった。映像も音も大変に繊細で、綺麗で、それぞれの登場人物の心情や表情を大きいスクリーンで観ることで、自分もその作品の一部なのではないかと錯覚させられた。
この映画に役者として演じている俳優たちはみな、顔が綺麗なのは当然のこと、演技力がピカイチだった。それがまた、私たち視聴者の心を揺さぶり、それまで見向きすらしたことなかった歌舞伎の世界に片足を出そうかという思いにさせたのだろう。
歯車が狂い始めたのはどのあたりだろうか。映画鑑賞後、友人が「俊介の血筋が不幸を招いたのね」と言っていた。確かにその通りで、努力でのし上がった喜久雄と違って、初めから歌舞伎役者の名の下に生まれ育った俊介は一度は失踪したものの、父亡き後には歌舞伎役者として再び戻ってきた。それに引き換え、喜久雄は半二郎就任直後に歌舞伎の世界から干されている。
糖尿によりこの世を去った父同様、俊介も若くして糖尿にかかり、歌舞伎役者として舞台に立ち続けることが難しくなっていく。「遺伝」してしまった「血」は、俊介にとっては自分の歌舞伎役者としての人生を保証するものであったのと反対に、喜久雄が喉から手が出そうなほど欲しがったものだ。
映画鑑賞後、私たちは「この映画を一言で表すなら」と、「一番可哀想な人と一番残酷な人は誰か」という話で持ちきりだった。単なる「ヒューマンドラマ」や「成長物語」と謳うにしては、この映画の良さは何一つ伝わらない。人に勧められるに値するキャッチフレーズがなかなか思い浮かばない。私がそこで出した答は「人生と犠牲」だったが、それだけではネガティブな印象になってはしまわないだろうか。結局、その問いに対する私たちの答えは出ないまま解散してしまった。では、「一番可哀想な人と一番残酷な人は誰か」に対して、一番可哀想なのは、森奈々演じる彰子なのではないだろうか。喜久雄のいわば「道具」にしか過ぎないように感じた。喜久雄が歌舞伎の世界に戻るために彼女をものにしたのにも関わらず、俊介が歌舞伎役者として活躍する今、小さな劇場等で自分たちの力で営業をして出向くしかなかった。森奈々はそのどれにもついて行くが、2人の関係に「愛」があるとは見受けられなかった。彼女は都合の良いように利用され、そして喜久雄の元を去っても未練すら抱いてもらえない可哀想な存在だった。森奈々はインタビューで以下のように語っている。
「表現を追い求める先にあるものが楽園への道とは限らない。それでも人生を賭ける理由がこの世界にはある」と。
喜久雄の「悪魔との取引」は成功して、最後には「国宝」として日本一の歌舞伎役者になった。それまで、歌舞伎以外の全てを犠牲にして。喜久雄が娘のあやめと再開するインタビューのシーンで語った「未だ見ぬ景色」は彼が「国宝」となって舞台に立った頃、ようやく現れた景色だ。それが彼にとってのさらなるスタートラインとなっただろう。
ようやくスタートラインに立つことができた彼は、幸せだったのだろうか。原点でもある「景色」を見させてくれたかつての「国宝」のように、喜久雄も死ぬ間際には「綺麗なもの」が何もない質素な部屋で生涯を終えるのだ。
まずこの時代に歌舞伎役者というものを題材に人気若手俳優を起用したの...
全2026件中、861~880件目を表示
映画チケットがいつでも1,500円!
詳細は遷移先をご確認ください。