「心が苦しくなる物語」国宝 ルルさんの映画レビュー(感想・評価)
心が苦しくなる物語
歌舞伎役者の生涯を描いた作品
結構大人向けの作品だと感じました。
レイティングPG12は低いのでは?と個人的に思いました
時代背景が昭和な事もあり、未成年飲酒や未成年喫煙等が含まれます
父親や銃殺されるシーンや、チャカやドスを未成年が持ち出して報復に行くシーンもありますし
今では許されない、道路交通法違反の自転車の二人乗り(自分の時代はうるさくない時代だったので青春の1ページを見た感じで懐かしく思いました)
今じゃあまり許されない体罰の表現もあります(時代背景、厳しい役者の世界を理解できるのが大前提)
濡れ場もありますし、なにより話が難しい。
大人は理解ができるかもしれ無いですが、中学生未満の方に昭和の時代背景が理解できるのか?
知識の無い子供にはなかなかに難しい話で、この作品の良さが伝わらないのかなと思うと、少し残念に思います。
なんなら大人でも人によっては難しい表現があったりして、人を選ぶ作品なのかなと思います。
自分は、生きている間に歌舞伎を生で拝見したいと思っている人間ですが、そんな夢を持ちつつも、歌舞伎の知識はほぼゼロ。
歌舞伎の演目が何本か出てきますが、コレは事前に知識を入れて行って方がより楽しめたのでは?と思います(実際歌舞伎好きな方の意見聞きたいですね)
これから、国宝に出てきた演目を何かしらで拝見したいと思っています。
とは言え、演者さんが全員上手いので、歌舞伎の演目がわからずとも、演技にとても引き込まれました。
芸能の世界の厳しさをリアルに表見していて心が潰れそうでした
自分は、芸能界の道を少しでも経験した人間です
いくら、努力して才能があっても、血筋や後ろ盾がないとこの世界で上り詰めるのは本当に難しいのですが、それを赤裸々に表現していて本当に切なかったです
主人公の喜久雄は、歌舞伎の道なんて縁の無いその筋の跡取り息子
ある日突然、父親が他の組に奇襲をくらい、眼の前で自分の父親が殺されてしまい
孤児となった喜久雄は、歌舞伎役者の半二郎に見初められ、引き取られます。
望んでなったわけでもない厳しい歌舞伎の世界。引き取ってくれた恩を返す為にも稽古を一日も休まず、歌舞伎の楽しさを見出していく喜久雄。
最初こそいい顔をしなかった実の息子の俊介(俊坊)ですが、やがてお互いを切磋琢磨する兄弟弟子として仲良く稽古に励む思春期を過ごす
時は流れ、二人共成長し立派な青年になり、ますます歌舞伎に箔が付いてきます
喜久雄は相変わらず努力をしメキメキ役者の腕を上げていきます
一方、半二郎の実の息子で御曹司の俊坊は、御曹司と言う立場にあぐらをかき、酒気を帯びたまま舞台に立つ始末
そんな中、贔屓にしている会社の社長が若き二人に目を止め、二人が主演の舞台を設けようと持ちかけます
当たれば若きビックスターの誕生、外れたら大コケ
楽しそうに賭けに出ますが、結果は大当たり、晴れて若き二人はスター街道真っしぐら
喜久雄はますます稽古に熱が入り、逆に俊坊はますます御曹司の座にあぐらをかきます
時が経ち、努力が報われて半二郎に認められた喜久雄。半次郎が事故で動けない事で代役の主役の座を、喜久雄に任せるのだと言います
実の息子は実力で負けてしまいます。約束された地位が奪われてしまった絶望。自業自得な部分があるとは言え、見ていて切なかったです。なにより、実の息子ではない喜久雄に対して、負けを認め、プレッシャーに押しつぶされそうになっている喜久雄を支えるといった優しさを持っていたところが辛かった。(めちゃいいヤツ)喜久雄の晴れの舞台を観客席で観ていた俊坊は、演技の実力差を目の当たりにして、実の息子である俊坊は、プライドがぶちのめされ、居ても立っても居られず席を立つ。席をたったのを目撃し、俊坊を追いかけたのは、喜久雄と両思いだった幼馴染のハルエ。しかしハルエは、歌舞伎役者としての喜久雄の邪魔になりたくないと感じたのか、喜久雄の求婚を断っていました。追いかけた先の俊坊は、ハルエに今までの苦悩を吐露します。歌舞伎役者としての一番に慣れなかった俊坊、そして喜久雄の一番に慣れなかったハルエ。そんな二人は歌舞伎の世界から、そして喜久雄から半ば駆け落ち同然のように逃げてしまいます。
時は経ち、喜久雄は正式に先代から名跡を譲り受けます。
先代は先々代の名跡を継ぎ、喜久雄は空いた先代の名跡を継ぐと言う状況。
その状況に腹を立てたのは、先代の奥方である幸子。
何故実の息子の事を考えてやらない!と旦那に怒り
よくも跡取りの座を奪ったな!と喜久雄に怒り
負けを認めて逃げ出した実の息子に怒りを表します
(全員に平等に怒るところがいいところだと思いましたし、こーゆー時ってホント男って!って女性は思うところかもしれないです。大なり小なりこんな感じの時あるよなってカンジで)
名跡を受け継ぐ儀の始まり、舞台に並びお客様に挨拶をする面々。
その舞台の最中、先代の様子がおかしくなり、倒れてしまいます。
意識朦朧とする中で、先代は俊介(俊坊)の名前を連呼します
俊坊が出ていってからと言うのも、これまで以上に稽古に励み、先代と一緒に歩んできた喜久雄にとって、何をどう頑張っても抗えない血筋と言うものが重くのしかかりった瞬間でした
先代はそなまま亡くなり、やがて喜久雄は家どころか歌舞伎からも逃げた俊坊を見つけ出す
なにやってんだよ、と怒るかと思いきや、生きててくれて良かったと俊坊に告げ、歌舞伎の道に連れ戻す
そこには俊坊とハルエとその間に産まれた息子の姿もあった
歌舞伎の世界に帰って来た俊坊は、メディアにひっぱりダコ
一方、ちやほやされていた筈だった喜久雄はカタギでは無い時の過去がメディアにさらされ、更には隠し子のスキャンダルまで出てしまい、名跡を奪った悪者として世間から非難の目で見られるようになってしまいます
(築いてきた地位がメディアによって一気にどん底に落とされる描写は、今で言うところのSNSで大炎上と言ったところでしょうか。今も昔も変わらないのが非情だなと思いました。隠し子に関しては、隠し子の母親は、二号さんでもいいと、最初から正妻になる事を諦めていたのでお互い了承して子供(隠し子)を産んだのだと思われます。)
時が経てば経つほどどんどん落とされていく自分に焦る喜久雄。
ある日、お世話になっている師匠の控室に出向き、役をくれないかと交渉に行く
しかし、スキャンダルはまだまだ鎮火を見せる事なく騒がれている状態
「今は静かにしておくべきだ」と取り合ってくれない
そっと控室を後にしたその時、師匠の娘である彰子が親しげに声をかけてきた
立ち話もそこそこに、娘は「お父ちゃん!」と元気よく師匠の控室に入っていった
そこで喜久雄の怪しい目が光る(ハイこの男、この娘利用するなと察し)
後日、俊坊が主役を務める舞台の稽古場に、彰子の父である師匠が怒鳴り込んできたのである
「彰子に手を出したのは俺の後ろ盾が欲しいからだ!」と怒鳴り喜久雄に手を挙げる
それを必死に庇う彰子
喜久雄に惚れていた彰子は親と勘当同然で喜久雄と二入で出家する事を決意する
お世話になった家を出る際に、女将さんに「泥を塗ってしまってすいません」と謝る喜久雄
(彰子に手を出したのは違ったかもしれないけど、それ以外はそこまで悪い事してないと思う)
出ていこうとする喜久雄を俊坊が追いかけるのだが「結局は血筋じゃねぇか」と怒鳴る喜久雄
芸の道を極め、努力してきても、結局血筋と後ろ盾で返り咲く事も安易な俊坊に怒りを露わにする
(今の芸能界もこのような感じなので、結局ド素人の天才が居たとしてもなかなかお表に出られないのが現状なので見ていて辛かったです)
全て無くしてしまった彰子と喜久雄は、宴会場の余興的なもので歌舞伎をしながら日銭を稼いで暮らしていた
歌舞伎が好きで舞台を見に来る人達には、喜久雄の芝居は最上級のものだったが、宴会場の客は、得に歌舞伎に興味もなく、舞台と呼べるにはお粗末な小さな舞台に目をくれる事すらなく、極められた喜久雄の芝居はまるで背景と化していた。
(頂点にまで上り詰めたものが地の底まで落ちた姿がとても痛々しかったです)
それでも尚、自分には歌舞伎しかないんだと、巡業を続ける毎日。
そんな中、自分の事ではなく歌舞伎の事しか見ていないと言う事実に、遂に彰子は気づいてしまい、喜久雄の元を去る
彰子も離れ、一人ホテルのベッドで寝ていると、喜久雄と俊介の演技を贔屓にしてくれていた会社の役員が喜久雄を迎えに来た
なんと、人間国宝である歌舞伎役者である万菊が90歳すぎた今、喜久雄に会いたいと言うのだ
万菊の後ろ盾もあり、喜久雄と俊介はまた若き日のように一緒の舞台に立てるようになった
そんな喜びもつかの間、俊介は足が壊死してしまい片足を無くしてしまう
片足になった俊介は、両足がダメになってしまう前にもう一度舞台に立ちたいと願う
片足と言うハンデを背負いながらも、二人は同じ舞台で最後まで最高の演技を見せるのだが、舞台が終わった後、俊介を息を引きとってしまうのだった
(先代(俊介の父)が事故で舞台に立てず代役を喜久雄に抜擢した演目だったのがエモかった。俊介は父と同じで舞台で息を引き取ったのだ)
時は立ち、喜久雄は貫禄のある歌舞伎役者で人間国宝になった
雑誌のインタビューを受ける中、カメラマンの女性が喜久雄に問う「昔出会った、藤駒と言う芸者を覚えているか」と
その問に「忘れた事は無い」とその女性のカメラマンの名前を呼ぶ
そのカメラマンの女性は紛れもなく、喜久雄が昔スキャンダルに出た隠し子本人であった
隠し子である綾乃は「父親と一度も思った事がない、どれだけの犠牲の上に今の貴方がいるのかわかっているか」と罵声を浴びせるが、
歌舞伎役者としての喜久雄に、母子共々心酔していたと評価する
「日本一の役者になったねお父ちゃん」
と笑顔を見せるのだった
(隠し子として、母子共に苦労もして憎い時もあっただろうに、父の一生懸命な姿に救われた時もあったのだろうなと、泣ける場面でした。喜久雄がちゃんと考えていたであろう発言もグッときました)
人間国宝となった喜久雄は、先代人間国宝である万菊が努めていた舞台で見事主役を勤め上げます
立派に演目を終え、膜が降りた時、そこには誰もいませんでした
育ててくれた両親も、お世話になった先代も、良きライバルであり兄弟弟子だった俊介も
誰もいなくなり一人ぼっちでスポットライトを浴びる
その光景はとてもキレイで、喜久雄の探し求めていた景色でした
若き日に「何もいらないから、最高の歌舞伎役者にしてください」と言う夢が叶った時だったのです
(なんにでも言える事ですが、なにかを頑張る時になにかの犠牲無くして成果は出せないものだと言う無情が可視化されて、とても切ない最後でした
難しい話ではありますが、高校生や大学生ほど見て欲しいものなのかなと思いました)
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