劇場公開日 2025年6月6日

「人生こそ見世物のようで」国宝 N.riverさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 人生こそ見世物のようで

2025年8月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

興奮

知的

原作未読のまま、ようやく観た。
原作者と監督のこのコンビは「悪人」や「怒り」いらい信頼している。

芸道にまい進する主人公の、憑りつかれたような尋常ならざる生き様を追う、ともとれるが、主人公はそもそももう帰るところがないのだ。退路を断たれているのなら何があろうと進むしかなく、様が鬼気迫るものだとしてしかるべしと観た。
その道が芸道という特殊さが本編の華であり、映像美も相まってヒットにはうなずくほかない。

その二転三転するような道筋はのっけから観る者にとって非日常の連続で、劇中劇形式であればこそ作中の現実さえ芝居の一部のように見え、いやこれは主人公にとっての現実なのだと思えばまるで主人公の人生こそ見世物のようで、翻弄されるままの彼はまさに観客を沸かせる悲壮が滑稽なピエロ、そう感じられてならなかった。同時に、一部始終が芝居のシナリオかと疑うようだった市川猿之助さんの事件を思いだしている。
多くの人の前に立ち、惹きつけ、とてつもないプレッシャーの中でこなす時、何か尋常ならざる領域を出入りするのか。深淵をのぞくのか。常人には理解できない行動のとっかかりを、もしかしたらありうるかもしれない、という感覚を作品の中に見たような気がしている。

年齢ごとに役者が変わると途中、すっ飛んだ風に感じることが多い中、本作はうまくスライドしていて違和感がなかった。年を追うごとに全員、老けてゆくのだが、時間経過も分かりながらわざとらしくなくて、これまたよい。
もし2度目見たなら、冒頭の学生服の主人公二人にこれからのことを思い、泣いてしまうかもしれない。
血の話、実力の話、ない物ねだりは合わせ鏡が切ない。
和楽器と重なる劇中BGMの効果も、歌舞伎を極力親しみやすく変えていたと思う。
これで若い人も歌舞伎に興味を持ってくれたならいいのにな。

N.river
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