「歌舞伎の生々しさを伝える」国宝 REXさんの映画レビュー(感想・評価)
歌舞伎の生々しさを伝える
歌舞伎ファンから観ても、シネマ歌舞伎を観ているのかと思うくらい、二人は歌舞伎役者になりきっていた。
ここまで歌舞伎の口舌を修得するのは大変だったろうし、凄い。
失敗の許されぬ舞台の緊迫感、一つ一つが息をつかせぬ美しさを持ち、あっという間の三時間。愛憎まみえる二人の人生のクライマックスは、やはり俊介が糖尿で壊死する足をつと差し出す、曽根崎心中でしょう。
浮き世を忘れて己のことだけを考えていればいいのは幸せなのか、それとも逃げ場のない牢獄なのだろうか。田中民の「あなた、歌舞伎が憎くてたまらないのでしょう」と。でもそれでいいのよ、というセリフがすべてを物語っているのかもしれない。
『世襲』という制度は芸の世界において、後ろ盾にも枷にもなる。その世界の光と闇を、描ききったなぁと。色々なエピソードが、様々な実話を彷彿とさせました。
ただ気になったのが、いくら先達の娘とねんごろになったからといって、三代目を襲名した人間をあそこまで落ちぶれさせることはしないかと。また、俊介が歌舞伎から遠ざかっている間に、別の成功をおさめて意趣返しするものだと期待していたら、そうじゃなくあっさり戻ってきただけだったのが残念。原作ではやはり成功してから戻って来るそうです。やっぱりねー。三時間あってもそこは描けなかったのか…?
春江、喜久雄から俊介にさらっと乗りかえたけど、それは喜久雄に取り残された者同士の共感からか? しかし結局俊介が亡くなっても息子が跡取りになるので、後見人として喜久雄と二人で花井家の中心に据えられることになりますよね。ここまで、春江の計算なのか?!と思ったら、したたかなんもんだと思ったのでした。
あとね、任侠の世界で、余興で子供に歌舞伎をやらせるということがあるのかな…?と。ただ、両者に日常から遠い世界としての共通点は、あるのかもしれない。
いやぁ、細々したことはさておき、演者の憑依系演技、こちらも力が入り、どっと疲れました。
それにしても邦画は相変わらず老けメイクは下手だね。
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