「あくまでも「映画」として歌舞伎の世界を描いた作品として、稀有な完成度を持った一作」国宝 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
あくまでも「映画」として歌舞伎の世界を描いた作品として、稀有な完成度を持った一作
任侠の道から歌舞伎の世界に入っていった男の生涯を描いた物語は、きりの良いところで時間軸がジャンプする、という『ヤクザと家族 The Family』(2021)とも相通じる構成により、「歌舞伎」という言葉の重々しさとは裏腹にある種の軽やかさを伴って進んでいきます。
そのため、3時間近い上映時間にもかかわらず描くものを絞り込んでいる、という感があり、中だるみを感じる余地もないどころか、どことなく全体的にダイジェスト版を観ているかのような印象すら受けてしまいます。
本作の肝である歌舞伎の演目の描写は、世間の評価通り確かにさすがの一言。もちろん、主役の吉沢亮と横浜流星による、高名な歌舞伎役者も納得の堂々たる歌舞伎役者ぶりが絶賛に値するのはもちろんですが、撮影監督のソフィアン・エル・ファニのカメラワークも注目に値します。
女形の表情を息遣いまでも聞こえてくるようなクロースアップで捉えたり、舞台背景側から役者の背中、観客席を捉えるというカメラアングルなど、どこまでも映画的な文法に則って撮影しているのに、「歌舞伎の舞台を体感した」と観客に感じさせてくれます。
裏返して言えば、歌舞伎の演目の全体像を観たい、という期待を抱いてしまうとちょっと不満を感じるかも、ですが。
吉田修一の原作が本作の物語的な柱を確固としていることは間違いありませんが、その上で歌舞伎の映画化、ではなくあくまでも映画として歌舞伎を描く、李相日監督の作劇が見事に一貫している点が、本作の完成度を一層高めていると感じました!
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