劇場公開日 2025年6月6日

「恩讐の彼方に」国宝 ストレンジラヴさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5恩讐の彼方に

2025年6月14日
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鑑賞方法:映画館

泣ける

怖い

難しい

「歌舞伎が憎くて憎くてしょうがないでしょう。それでいいの。それでもやるの。それがアタシたち役者というものでしょう」

吉田修一の同名小説を映像化。任侠の子に生まれながら女形としての天賦の才を見出された喜久雄(演:吉沢亮)は、抗争で両親を失った後、歌舞伎役者・二代目花井半次郎(演:渡辺謙)に引き取られる。半次郎の子・俊介(演:横浜流星)と共に歌舞伎の道に進み、歌舞伎役者として頭角を現していくふたりだったが...。
特報を目にした時から、どうしても「さらば、わが愛/覇王別姫」(1993)が脳裡にチラついて仕方がなく、気乗りがしないまま公開1週目での鑑賞を避けてしまった。しかしその後の各方面での声に押されてようやく重い腰を上げたのである。
結局終始圧倒され続けた175分だった。人によっては既に今年No.1に推す声もあるようだが、自分にはこの時点で今年No.1かどうかは分からない。しかし上位に食い込むのは間違いないだろう。単なる家柄と資質の話かと思いきや、喜久雄と俊介それぞれに「生まれの呪い」が降りかかる。約半世紀の物語が展開されるが、その間外部の政治的に出来事は一切物語に影響を及ぼさない。運命を狂わせるのは常に「梨園」という独自の世界である。この小さくも底が見えないブラックホールがふたりに情け容赦なく襲いかかる展開は我が国の文化でしか描けないのではないだろうか。
前半は二代目花井半次郎が物語を牽引するが、半次郎亡き後半は、生前の半次郎の功罪に喜久雄と俊介がひたすら翻弄される。後半は時間の進み方がブツ切りで駆け足気味だった点はやや気になったが、それでも終盤の「曾根崎心中」と「鷺娘」には思わず息を呑んだ。
歌舞伎というものは十七世紀、上方で大流行した。風紀の乱れを懸念した幕府によって女性が舞台に上がることが禁じられ、以来男性が女性を演じる「女形」が誕生する。役のために男性が女性の魂を宿すため、女形にはある種の性倒錯に近い状態が付き纏う。一流の女形は舞台のみならず、日頃の所作や言葉遣いに至るまで女性となるのである。舞台で至上の風景を目にするために悪魔と取引をした喜久雄は、演目を終えて真っ白になった。このまま吉沢亮もろともどこか遠くの世界に連れて行きそうな真っ白な雪に...。
あかん、うまいこと言われへんな...。

ストレンジラヴ
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