「私的、弱点と凄みを感じさせる、今年の代表的な作品の1つだと」国宝 komagire23さんの映画レビュー(感想・評価)
私的、弱点と凄みを感じさせる、今年の代表的な作品の1つだと
(完全ネタバレですので必ず鑑賞後にお読み下さい!)
結論から言うと、今作の映画『国宝』を面白く観ました。
ところで個人的には、李相日 監督の作品は、多くの作品で弱点と凄みがあると感じて来ました。
おそらく、今作を絶賛する人がほとんどでしょうから、まず私的感じた弱点から‥
今作の映画『国宝』に私的感じた弱点は、1つ目は、主人公・立花喜久雄(吉沢亮さん)が、花井半二郎(渡辺謙さん)のトラック事故により花井半二郎の代役で「曽根崎心中」を演じるのですが、その時に観客にいた大垣俊介(横浜流星さん)と福田春江(高畑充希さん)の関係性に疑問を感じた所です。
大垣俊介は、父・花井半二郎の代役を演じられなかったいたたまれなさで、主人公・立花喜久雄の「曽根崎心中」の観劇から中座します。
そして、福田春江も、観客席から中座した大垣俊介を心配して追って観客席を後にし、その後、大垣俊介と福田春江は駆け落ちし、歌舞伎の世界から(一旦)いなくなります。
ところが、1観客の私は、主人公・立花喜久雄と幼馴染だった福田春江が、彼にとって重要な花井半二郎の代役の「曽根崎心中」の舞台に集中せず、大垣俊介の方に気を取られ大垣俊介の後を追った、彼女の心の動きに違和感を持ったのです。
その理由は、主人公・立花喜久雄と福田春江の関係性はそれまで描かれて来た代わりに、大垣俊介と福田春江の関係性(モンタージュの積み重ね)がほぼ描かれてないのが理由だと思われました。
これは、李相日 監督が、女性との関係性の積み重ね描写にそこまで関心が薄いのが理由だと、僭越思われました。
例えば、映画の終盤で、三代目・花井東一郎となった主人公・立花喜久雄は、カメラマンとなった娘・綾乃(瀧内公美さん)と再会します。
そして、娘・綾乃の父への語りは感動的な場面だったと思われます。
しかしながら、娘・綾乃が、自分と母・藤駒(見上愛さん)を捨てた父・三代目・花井東一郎を非難する時に、観客は、母・藤駒の、捨てられて苦労した沈痛な表情のモンタージュを思い起こすことは出来なかったと思われます。
なぜなら、母・藤駒から向けられた、主人公・立花喜久雄への関係性と表情を、それまでしっかりと描いてなかったのが理由だと思われました。
観客はその代わりに、娘・綾乃が父・三代目・花井東一郎(立花喜久雄)を非難している時に、三代目・花井東一郎が同様に苦労をさせた、彰子(森七菜さん)の表情をそこに重ねたと思われるのです。
李相日 監督は、様々な登場人物のそれぞれの立場から作品を描くというより、(もちろん全てではないですが)主要な登場人物からの一方的な描写で描き通すスタイルがあるように感じて来ました。
なのでその弱点として、福田春江と大垣俊介との関係性や、娘・綾乃の母・藤駒からの立花喜久雄への関係性の、描写の欠落が起こってしまっていると思われたのです。
あとの細かい今作の弱点としては、広いロケシーンで、ピンボケとはいえ、遠景に現代的な建物や構造物や車などが映っているのは気になりました。
李相日 監督は、”全てやり直せ!”と暴君的に振舞っても許される立ち位置に既にいる監督だとは思われます。
出来れば、このレベルの作品であれば、遠景の背景は全てCGで描き直す要求をして欲しかったとは思われました。
そして例えば、花井半弥(大垣俊介)の義足の足先が動いてしまっている場面もあったと思われたりもしましたが、李相日 監督ならその点で周りに完璧さを求めることも可能だったと思われます。
また、歌舞伎のシーンでは、扇子の位置や手や首の角度に至るまで、互いにシンクロするレベルでの要求が可能だったのではとも思われました。
それほど、李相日 監督への期待値の高さがあり、国宝の歌舞伎という題材ではなおさらあったように思われました。
しかしながら今作に私的感じた弱点はそれぐらいで、あとは圧倒される場面と映像とそれぞれの俳優陣の圧巻の演技の数々の積み重ねの凝縮があったと思われます。
上で、様々な登場人物のそれぞれの立場から作品を描くという意味では、李相日 監督には弱点があると書きましたが、逆を言えば一方で、主要な登場人物の描き方の強度と凝縮さは、圧倒的な今回も凄みがあったと思われます。
その迫力は、特にそれぞれの役者陣の演技に関しては、特に主演と助演の男優賞は、今年、今作が総なめにするのではないかぐらいの驚愕さがあったと思われます。
圧巻の演技と迫力の場面の積み重なりにより、結果的には今作は(私的感じた弱点など遥かに超えて)傑作だ、との評価をせざるを得ない、重さある優れた作品になっていたと、僭越思われました。
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