「「国宝」こそは生きる力を伝える国民へのメッセージ」国宝 おささんの映画レビュー(感想・評価)
「国宝」こそは生きる力を伝える国民へのメッセージ
劇場で観たほうが良いという意見がネット上でかなり多かったので、ちょっとそれに乗せられて映画館へ……。
……結果、「確かにこれは劇場で観たほうがいい」「ここの皆さんが、映画館で観ることを強くおすすめしているのも、間違いではなかった」と、心から思った。だから皆さんにも感謝!
僕は歌舞伎についても詳しくなく、原作も未読。まっさらな状態でこの作品を観た。
しかし、ただ「舞台が美しい」とか「踊りが素晴らしい」とか、そういうレベルの映画ではないと認識した。
この映画が描いていたのは、「情念」でした……。
単に舞台を撮っているわけではなく、登場人物たちの内側から溢れ出る「情念」が、なぜかスクリーン越しにこちらへ迫ってくる。
その圧に、僕ら観客も息を呑んでしまう。
静かな場面では、映画館の劇場全体が凍りついたかのように静まり返ってしまった。
客席の一人ひとりがその張り詰めた空気に呑まれているのがわかる。
それだけ、俳優たちの魂が確かに映画の中に込められている。
吉沢亮氏と横浜流星氏……すごい役者に育っていると思う。彼らの血の滲むような努力が、映画の中で役として熟成され、完全に息づいており、舞台上での緊張感もそのまま、僕たち観客に伝えてくるといった凄味を伴った映画なのである。
気づけば、約3時間という上映時間があっという間に過ぎていた。
そしてエンドロールが終わったあと、自分の魂がどこかへ連れていかれたような、そんなぼんやりとした感覚だけが残っていた……。
僕は力を振り絞って、ゆらりと立ち上がり、劇場の外へ少しよろめきつつも歩いて行った……。
すごい映画を観たあとは、必ずこうなってしまう……。
ネタバレを避けつつ感想を語るのは難しいのだけど、前半は二人の主人公による、嫉妬と友情が入り混じった心のシーソーゲーム。
中盤からは、「舞台に生きるとはどういうことか?」という問いかけが、じわじわと浮かび上がってくる。
役者という生き方は、ときにその者の人生そのものを壊してしまう。
まるで悪魔と契約したかのように、その世界に取り憑かれ、他のすべてが見えなくなっていく。
人生、いい時もあれば……悪い時もあるさ。
言葉にすれば簡単だけど、本人が目の前にした時の辛さ、じっと耐え抜く生き方。
実際に目の前にすると耐え難い現実となる。
映画はその見せ方が上手い。切り取り方がうまい。人生における緊張感が、ぶつ切りで連続してくる。だから瞬きすら忘れるほどだ。
あるものを失って底辺に落ちれば、人から見下され、罵られ、そんな状況に耐えきれなくなった女からはあっさり見放され……惨めな状態。
自分もまさにそんな状態にあるから、すごく感情移入してしまった……。
特に印象に残ったのは、物語の初めに殴り合った相手が、親友になるわけでもなく、ただ見捨てず手を差し伸べる場面。
そこに乱暴だけど偽りのない人間らしさがあって、思わず涙が……。
さらに、ある因縁の再会の場面にも泣かされた。
カメラを向けるとある女性から投げかけられた言葉が、胸に深く刺さってくる。
そのときの主人公は、人生の荒波を越え、もはや神々しさすら纏ったような存在になっていて――そこでも人生を感じて涙がこぼれてしまった。
……他にも心を打たれる場面はいくつもあったのですが、ネタバレになるので控えておきます。
「人には夢がある」「やりたいことがある」と、そう簡単に言うけれど、実際はそんなに甘いものじゃない。
ときには人生を壊すほどの覚悟を持って、それでもなお進まなければならない。
誰かに「たとえ憎しみを持っても、舞台に立ってしまうもの」と言われて、舞台に立ち続けた先に見える景色は、言葉では言い表せない何かであり、それは極めた者だけに見える世界なのだと、深く感じさせられた。
この作品は、人生に迷っている人や、何かに傷ついて希望を見失っている人にこそ観てほしい映画。
観た人の心に、きっと何かを響かせてくれる。
そんな、神々しさすら感じる映画でした。
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