劇場公開日 2025年6月6日

「コップ一杯の血が欲しい」国宝 キタロウさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0コップ一杯の血が欲しい

2025年6月10日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

興奮

3時間があっという間でした。
梨園に血筋がなく、稽古に稽古を重ね人間国宝にまでなった女形といえば、
五代目坂東玉三郎を思い浮かべますが、その生涯とはまったく別な物語。
とはいえそこで舞われる演目には、玉三郎の十八番も随所に登場します。
ただ、歌舞伎を深く知らなくても、エンターテイメントとして
十分に練られ見応えある作品にしているのが李相日のさすがな手腕。

吉沢亮が苦しくも美しい才ある歌舞伎役者になりきり、いったいどこまでいってしまうんだろうか、そんな不安を抱かせるほどに狂おしい演技を見せています。
初の大舞台の前の楽屋、花井半弥(横浜流星)にすがり「コップ一杯の血(梨園の血)が欲しい」と泣きつく場面のなんと切なく悲しいことか。

そして人間国宝になった後の半二郎(吉沢亮)が最後に舞う「鷺娘」。玉三郎がその圧倒的な美の世界を演じきり、世界的に称賛されたこの演目を、吉沢亮は歌舞伎役者としてではなく、人間・吉沢亮として静かに演じ自分をその舞の中に沈めていきます。そこには、歌舞伎役者になれずとも、同じく演じることの「業」を抱える俳優の生き様も、幾ばくか見られたような気がしました。

長いエンドロールの後、ひとりの老人が手をたたき喝采していました。
自分も歌舞伎にならい少し叫んでもよかったかも「丹波屋!」と……
そんな気持ちを抱きながら、よい映画の後ならではの高揚感を胸に、劇場を後にしました。

キタロウ
PR U-NEXTなら
映画チケットがいつでも1,500円!

詳細は遷移先をご確認ください。