劇場公開日 2025年6月6日

「ハイカロリーにヤられる」国宝 キレンジャーさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5ハイカロリーにヤられる

2025年6月9日
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映画そのものから受けた印象は★4つ。
ただ、約3時間観客をスクリーンに釘付けにしたその熱量に★0.5をオマケした。

役者が役者を演じ、カメラは彼らの半生を追いつつ、我々は劇中劇の観客として観劇する。
映画館の客席と歌舞伎座の舞台はシームレスに繋がっているのだ。

物語の軸は、歌舞伎の名家に身寄りもなく引き取られた若き才能を主人公に、その師匠の御曹司という、地位の約束されたライバルとの争い。
ありふれたスポ根の様に見えて、描かれる人生はそんなに簡単なものではない。
歌舞伎という「血脈」が絶対的な価値を持つ世界で、他者が名前を継ぐということの意味。
「血」による栄光と呪い。
その「血」を持たぬが故の主人公喜久雄の苦しみと孤独。

師匠半次郎は、名前に「一」の文字をもらった喜久雄を羨ましがる息子半也に言う。
「半次郎と半也で『一つ』やないか」
この時点では、喜久雄の才能を見込んだ半次郎の思いの様に見えるが、血縁のない喜久雄は、ここでは自分一人で生きていくしかないということを暗示していた。

それでもお互いに「役者として生きていく」ことしかできないライバル二人が、共に学び、遊び、助け合い、奪い合い、舞台に上がり続ける姿を、吉沢亮と横浜流星が熱演している。

本編スタート前に「ババンババンバンバンパイア」の予告が流れた。
私の中では吉沢亮って「そういう役者」というカテゴリーだったが、本作に登場する、まさに命を削って舞台に立つ彼の姿は私の知っている彼とはまったく違った。
(もちろんそもそも私の偏見なんだけど)
とにかく綺麗だし。

また、その師匠半次郎演ずる渡辺謙の、舞台に未練を残しながら、それでも枯れていく演技、そして慣習に反して喜久雄に名を継がせることへの複雑な胸中もまた、真に迫るものだった。

歌舞伎なんて私にはよく分からない芸能だと思っていたが、ここでは決して小難しいモノではないことが分かるし、全編通して、その熱量に圧倒される。
彼らの経験する栄華と凋落、ステージの上と舞台裏、とにかくものすごい熱量がスクリーンから溢れ出してくる。

上映時間は長い。決して「あっという間」とは思わない。しかし、スクリーンからのメッセージをたっぷり浴び続ける濃密な約3時間。
歌舞伎の演目もしっかり見せてくれる。その中身もちゃんと登場人物たちの境遇と重ねられている分、退屈もしない。ただ、疲れることは間違いない。
最後の「鷺姫」も素晴らしかった。

若い人が観たらどんな感想になるんだろう。
吉沢亮と横浜流星という若手トップの人気俳優が演じることで、若い観客もたくさんおられるはず。
今もなお続く、血縁絶対主義や女性は歌舞伎役者になれないという独自の文化などには、現代社会のモラルの中では違和感を感じる方もいるだろう。
その「良い」「悪い」はともかく、だからこそそこにしか生まれ得ないドラマを堪能して頂きたい。

キレンジャー
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