「才能と血、男女関係の危うさ」国宝 kenshuchuさんの映画レビュー(感想・評価)
才能と血、男女関係の危うさ
実際の歌舞伎を観たことはない。だから公式サイトで紹介している演目と用語の簡単な解説を事前に読んでおいてよかった。この事前情報だけでも結構違ってくる。
天涯孤独となったヤクザの息子喜久雄と、歌舞伎の名門の御曹司俊介を描いた物語。歌舞伎役者としての才能と、歌舞伎役者の一門の血縁。この2人の描かれ方が対照的だ。現代社会に「血」が重要視される世界ってどれだけ残っているのだろうと考える。もちろん才能のある者の子どもはその才能を遺伝子で、そして家庭環境で引き継がれる可能性は高い。芸能やスポーツの世界では2世の活躍も珍しくない。一方、経営や政治の世界では世襲を嫌う傾向にある。こうした分野では才能を引き継ぐことが難しいという理由もあるかもしれないが、それよりも血縁以外の人間にも門戸を開くべきという考えが強いからだと思う。歌舞伎の世界は未だに世襲のイメージが強い。それを批判するつもりはないが、本作を観るとそこに一定の危険性をはらんでいる気がしてしまう。
さて本作の内容だが、喜久雄と俊介が互いに持っていないものに焦がれ嫉妬し合う姿がとても人間らしくてよかった。原作は未読だが、吉田修一らしさを感じる。あれだけいがみ合い嫉妬にかられても、親友としての関係を維持するのはもはや家族の関係に近い。
晩年の喜久雄はとても孤独に思えて仕方ない。でも、そんな凡人の感覚とは違うところに彼はいるのだろう。最後のセリフは心から出てきた一言に思えるし、それがまた凡人の私達にも訴えかけるものがあった。
歌舞伎のシーンは、素人目で見るとどれもこれもなかなか凄かったが、歌舞伎を観慣れている人にはどう映ったのだろう。気になるところだ。
本流となるテーマとは別に感じてしまったのが、男女関係の危うさみたいなもの。あれだけ覚悟を持って喜久雄を追いかけてきた春江や彰子の行動に衝撃を受ける。いや、世の中本当にあんなことがありそうだ。弱っている男を守ろうとするし、自分勝手な行動ばかりでは愛想もつかす。とてつもなく切なく感じてしまった。
原作をかなり省略しているような部分も感じられたが大きな問題ではない。3時間が長く感じないくらいに濃密な鑑賞体験だった。いい映画だ。
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