「王道プロットだが、圧倒的なビジュアルで魅せる力技」国宝 ヘルスポーンさんの映画レビュー(感想・評価)
王道プロットだが、圧倒的なビジュアルで魅せる力技
これは喜久雄が悪魔との契約で常人では到達できない、あるいみ怪物的な存在になってしまう話となっている。
李監督の作品は一貫して映像が美しい。「悪人」も「怒り」もあらゆる構図、カットがバランス良く心地良い。
とにかくビジュアルに徹底的にこだわって作品を作っている監督だと思っている。
それが本作ではビジュアルそのものがテーマになっているように感じた。
プロット自体は王道で、ライバル2人が成り上がっていく友情あり愛憎ありのサクセスストーリー。「さらば、わが愛/覇王別姫」か、そこに日本の伝統芸を舞台にしたところでいうと1番近いのは「昭和元禄落語心中」だろうか。さらに引き取った子が実の息子より才能がある話等であればディズニー「ライオンキング ムファサ」だろう。
歌舞伎を題材にした映画でいうと溝口健二監督の「芸道一代男」や、小津安二郎監督のドキュメンタリー映画「鏡獅子」がありますが、どちらも実在の歌舞伎役者を代材にしていました。ちなみに本作の原作である吉田修一の「国宝」は溝口健二監督の短編「残菊物語」という歌舞伎役者の菊之の話に影響を受けて執筆されたとのこと。喜久雄の名前もモロに影響が出てますね。
他、Sgt. Kabukiman N.Y.P.D.(邦題:カブキマン)というアメリカのおふざけB級映画があります。大きな声では言えませんがyoutubeでフル視聴可能です。ニューヨークの警察が歌舞伎役者の連続殺人に巻き込まれてる途中、ひょんなことから偉大な歌舞伎役者の力を手に入れカブキマンに変身し悪を懲らしめていく話です。日本の伝統芸能である歌舞伎を題材にした映画というと怒られる映画です笑
本作はそんな王道プロットの上で、今現在メジャー作品では長らく扱われてこなかった"歌舞伎"をテーマに、ある意味国宝級イケメンである吉沢亮君と横浜流星君を主役に抜擢というさすが李監督といえるキャスティング。2人とも大河ドラマを経験して脂が乗ってきた最適なタイミング。
とにかく歌舞伎の女形の美しさを切り取った映画で、「二人藤娘」、「二人道成寺」、「曽根崎心中」、「鷺娘」の演目を通して2人の人間ドラマを描いている。
特に最後の国宝になった上で演じる「鷺娘」は圧巻のビジュアルで、孤独な主人公に唯一救いとしてある人物との再会も重ねる演出にすることで後腐れなくカタルシス抜群になっている。
3時間近い長編だがそれでも拾い切れていないところも多々ある。喜久雄を引き取る経緯や喜久雄の歌舞伎復帰の話は端折りまくり、特に寺島しのぶ演じる俊介の母 幸子との関係は最後拾って欲しかったところ!
正直もっと観たいと思った。
それだけ主役2人の演技、ビジュアルが素晴らしい。
歌舞伎の舞台に飛び込むカメラ、2人の顔面にクローズアップするカメラ、良い!
一度は逃げた俊介が最後は命懸けで演目「曽根崎心中」のお初に挑むというドラマも良い!
(ちなみに「曽根崎心中」の舞台といわれているのは大阪のお初天神(露天神社)で、記念碑もある。近くに住んでいたら聖地巡礼したかった。)
来年のアカデミー賞国際映画賞にもノミネートされるか?日本アカデミー賞は最優秀作品賞受賞確実だろう。
※この題材なら松竹配給だろ!と思ったらまさかの東宝配給。そんなことがあるのか。後で調べたら本作で歌舞伎監修をしている四代目中村鴈治郎さんはかつて東宝が歌舞伎に進出した唯一の東宝歌舞伎時代の公演メンバーの1人である二代目中村扇雀(四代目坂田藤十郎)さんの息子さんであることがわかった。東宝で歌舞伎を題材にしてこれだけの規模の映画を撮るのは色んな意味で大変だったんじゃないかと思う。松竹の歌舞伎座は当然借りれないよね笑 逆に松竹が絡まなかったから色々と自由に出来たのか。
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