劇場公開日 2025年6月6日

「大きいことを描くのに必死で、小さなことを疎かにしがちな印象を受けた」国宝 とぽとぽさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5大きいことを描くのに必死で、小さなことを疎かにしがちな印象を受けた

2025年6月7日
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大味な出来事の羅列であり、キャラクター主体の映画ではない。主人公が主体性なく状況に翻弄されて終始転がされてばかりいる印象を受けたけど、それも歌舞伎という由緒正しいしきたりや世襲から逃げられないでその道で生きていくしかない仕える身としての雁字搦めを体現しているのだろうか?つまり、"細部に魂は宿る"というように、本当に映画として大切なことが蔑ろにされているような。全て凄いクオリティなのに、どこか薄い。
撮影が凄いし、映画としてのクオリティは否定しようがなくて観ていられるのだけど、それに惑わされることなく観ると展開先行じゃないかみたいな印象。梨園を描くという大義のうえで、敢えてそういう選択をしたのかもしれない。人間そのものを描くというより梨園や象徴する伝統芸能の世界を描く。本作でしたかったこととしてそれで正解なのかもしれないけど、「人間ってこうだよね」的一般論みたいな、大文字・大枠な展開での転がし方ばかりで進んでいる気がして、"喜久雄だから(こそならでは)"みたいな個性となるものをあまり感じられなかった。
もちろん2人のキャラは青年期以降に見えてくるけど、少年期パートが総集編みたいに薄くて、その後も長い年月を描く伝記映画ありがち"濃いのに薄い"を地で行くような印象を受けた。

李相日✕吉田修一。代わる代わる豪華キャストが顔を出すけど結局のところ、吉沢亮も横浜流星2人による、役者の力。イメージングシステムなど巧さはあるものの、李監督のあの否定できない力強さみたいなものが、本作ではあまりに大きな外枠や形式に囚われすぎて希薄だったかも。
血と才、家と芸。美しい顔に自分が食われるさまをよう見とけ。本物の役者になりたい、日本一の歌舞伎役者に。いつも誰かがそこから見ている芸事を極めるうえで、悪魔と取引。つまり、綺麗事だけじゃやってられない。主人公2人の間で、『時計じかけのオレンジ』みたいに同じ展開が繰り返される構成。天国と地獄。嫌になっても、憎くてもやめられない、それでも舞台に上がるしかない愛憎渦巻く厄介な思い。好きや楽しいだけでは続けていけない、一筋縄では行かないもはや執念みたいな。守ってくれる血がほしい、お前の血をコップに入れて飲みたい。嫉妬と友情、というより戦友。そして、赤。見たかった景色に辿り着くまでに払った多くの犠牲、その上に成り立った成功("順風満帆"否定せず安牌「ひとえに皆様のおかげ」発言)。
女性の仕事。寺島しのぶであることに否が応でも感じてしまう必然性。そして、日本でもちゃんとインティマシーコーディネーター。

P.S. あと、糖尿病は遺伝するものだと初めて知った。

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とぽとぽ
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