盤上の向日葵のレビュー・感想・評価
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無理筋
疑問符がいつまで経っても消えない作品だった。
まず、演出で気になる部分がある。効果音が適切でない場面が散見された。例えば、少量の血が滴っているのに、ドロドロとした大量の液体を想起させる音が使われていた。
小道具も微妙に感じる。やくざな東明の凶器が「ドス」なのは、時代背景やペルソナを考えれば納得できるのだが、「理性的に後付けするならそう思える」といった感覚がする。腑に落ちない。
【2025/11/18-訂正】
私はドスと脇差を混同していたようだ。
また、寺山修司の『書を捨てよ町へ出よう』によれば、昔の博徒は脇差でよく人を刺したものらしい。つまり、上記の指摘は私の知識不足によって引き起こされた勘違いにほかならない。製作者に対して的はずれなレビューを書いたことについて申し訳なく思う。
あと、なんでibd(作中では、ゴールドフォックスと言われていたが...)に新卒でいく奴が母親の記憶があるとはいえ、セカンドキャリアで「ひまわり農園」を選ぶんだ。親元から逃げて、ゆるい仕事しつつ、将棋指せよ。どう考えたらこういうキャリアになるんだ?「母の死後、荒れて酒に耽溺する父から虐待を受けた」,「実質的な養父は校長」,「自身も東大に進学」,「将棋を打ちたくてたまらない」詐取された駒を買い戻すためにGF(GS)に入るのはギリ理解できるが、その後なんで「農園」に行くの?
「激務に疲れた」,「東京での人間関係に疲れた」,「都会の喧騒から離れて穏やかに暮らしたい」無理やり理由を挙げることはできるが、昔父親がろくに小遣いもくれずに肋が浮き出ていたような少年が、「華麗な学歴と職歴」というせっかく手にしたプラチナチケットをみすみす破り捨てるとは考えづらいんだけども...わざわざ人殺しにする必要もないように思えた。私の感性が終わっているのか、それとも頭が悪すぎるのか...そうであったら申し訳ない。佐々木蔵之介の最終判断も正直納得いかなかった。
ストーリーも同様。意外性は多少あったが、そこまで引き込まれなかった。泣けもしない。あと、仕方ないが画が地味。
「砂の器」の本歌取りは成功したか?
柚月裕子先生の同名小説を原作とした映画作品でした。柚月作品といえば、何といっても不朽の名作『孤狼の血』が思い浮かびますが、本作の舞台もおおむね『孤狼の血』と同じ1990年前後。どちらも刑事が登場する点では共通していますが、あちらが正統派のヤクザ映画であったのに対し、本作は、悲しい生い立ちを背負った主人公・上条桂介(坂口健太郎)の過去をたどりながら、殺人事件の真相に迫るヒューマンサスペンスとして描かれていました。
まず、多くの方が指摘されているとは思いますが、本作は明らかに『砂の器』の本歌取りだと感じた点から。悲しい生い立ちを持つ男が主人公という構造がまさに共通しており、野村芳太郎監督版『砂の器』で言うならば、坂口健太郎演じる上条は、加藤剛演じる和賀英良に重なります。ハンセン病の父(加藤嘉)を持ち、幼少期に過酷な境遇を生き抜いた和賀。一方本作では、父親(音尾琢真)からのDVや育児放棄に苦しみながら育った上条。いずれも類まれな才能を秘め、和賀はピアノ、上条は将棋の世界でその才を発揮していきます。父親に対して複雑な感情を抱く点も共通しており、和賀がその想いを自曲「宿命」に託して表現したように、上条もまた、暴力を振るう父から時折もらった飴玉を大切な思い出として胸にしまっている姿が印象的でした。いずれも胸を打つ筋立てであり、本作の根幹をなす重要な要素だったと感じます。
さらに、殺人事件を追う刑事コンビも『砂の器』との相似が見られました。本作では、ベテラン刑事の石破(佐々木蔵之介)と若手の佐野(高杉真宙)が全国を奔走して捜査にあたりますが、これはまさに「砂の器」における今西刑事(丹波哲郎)と吉村刑事(森田健作)の関係を想起させました。なお、小日向文世演じる元教師の唐沢、渡辺謙演じる”鬼殺し”の東明、音尾琢真演じる上条の父親といった人物たちは、『砂の器』における緒形拳演じる三木の要素をそれぞれ部分的に分担しているように感じられました。
このように、『砂の器』を彷彿とさせる構成で描かれた本作ですが、欲を言えば、劇伴をもう少し効果的に使って欲しかったという思いも残ります。『砂の器』では、クライマックスの演奏シーンで和賀作曲の「宿命」が流れる中、彼の人生が走馬灯のように映し出される印象的な演出がありました。一方で本作の主題歌はサザンオールスターズの「暮れゆく街のふたり」。非常にいい曲ではあるものの、フルコーラスで流れるのはエンディングのみで、途中に桑田佳祐のハミングらしきものがわずかに挿入される程度でした。脳が『砂の器』一色に染まっていたので、本作の静かな音設計がやや物足りなく感じられたのは否めませんでした。劇中でもう少し桑田さんの楽曲を印象的に用いれば、より深い余韻が生まれたのではないかと、手前勝手な思いが生まれたところでした。
とはいえ、俳優陣の演技は圧巻で、物語への没入感も高く、間違いなく劇場で観る価値のある作品でした。
そんな訳で、本作の評価は★4.2とします。
佳介があまりにも可哀想過ぎる
山中で身元不明の白骨死体が発見された。現場には、7組しか現存しない希少な将棋の駒が残されていた。駒の持ち主は、将棋界に突如現れた天才棋士・上条桂介と判明した。さらに捜査を進めていくと、桂介の過去を知る人物として、賭け将棋で圧倒的な実力を持つ男・東明重慶が浮上した。やがて、謎に包まれていた桂介の生い立ちが明らかになり・・・さてどうなる、という話。
あまりに桂介が可哀想すぎる。
それにしても、桂介の父親がひど過ぎる。子供は金をたかるだけの存在か?
東明は桂介が一度も勝てなかったということは、プロのタイトル取れるくらいの実力だったのだろうけど、いくら将棋は強くても金に汚過ぎる。
そして、死にたければ勝手に死ねば良いのに。佳介を巻き込んだのが許せなかった。
時代が過去とを行ったり来たりするが、桂介の心情を紐解くには良かったと思った。
上条桂介役の坂口健太郎も良かったが、東明重慶役の渡辺謙と圭介の父役の音尾琢真の悪役ぶりが素晴らしかった。
向日葵の向こうに誓った、、生き抜くという決意
2025.10.31 イオンシネマ久御山
2025年の日本映画(122分、G)
原作は柚月裕子の同名小説
殺人の嫌疑がかけられた天才棋士の半生を描いたヒューマンドラマ
監督&脚本は熊澤尚人
物語は、1992年に新人戦トーナメントを制したプロ棋士の上条桂介(坂口健太郎、幼少期:小野桜介)が壬生芳樹(尾上右近、幼少期:井上涼太)との竜昇戦に挑む様子が描かれて始まる
桂介は奨励会に入ることなくプロになった異質の棋士で、その過去は壮絶なものだった
一方その頃、山梨の山中にて身元不明の遺体が発見され、そこには高価な将棋の駒が一緒に埋葬されていた
その駒は世界に7つしかなく、警察はその行方を追っていく
そんな中、警察は上条桂介がその駒を譲り受けたという情報を得ることになった
刑事の石破(佐々木蔵之介)と佐野(高杉真宙)が捜査を続ける中、かつて桂介を気にかけていた唐沢夫妻(小日向文世&木村多江)の存在にたどり着く
そして、桂介の知られざる壮絶な人生を紐解いていくことになったのである
映画は、冒頭の桂介が過去を回想するという流れになっていて、そこに刑事2人の捜査が重なっていく
それによって、桂介の半生が提示され、彼がどのようにして棋士の道を目指し、嫌疑をかけられることになったのかが示されていく
桂介は父・庸介(音尾琢真)と母・春子(ジエン・マンシュー)によって育てられたが、母は桂介が幼い頃に自殺をしていた
その後、父は一人手で桂介を育てることになったが、ギャンブルによる借金と酒に溺れるようになり、次第に生活は困窮していった
小学校の頃には新聞配達で生計を助ける必要があり、配達先の唐沢家の前に捨ててあった将棋の雑誌を拝借していた
それから桂介は将棋にのめり込むようになるのだが、その理由というものが後半に明かされる
その後、桂介は良い大学に入れば金を稼げると言って父を説得し上京していた
そこでは将棋部に属することなかったが、ある夜のこと、路地裏にあった将棋道場にて、かつてはプロ棋士と持て囃されていた東明(渡辺謙)と出会う事になった
彼は真剣師として、賭け将棋を行なっていたが、今は借金まみれで、ヤバい筋のヤバい仕事をさせられていた
東明は彼の打ち筋を見て才能を感じ、賭け将棋の世界へと足を踏み込ませる
だが、わずかな賭け金でもまともに打つことができず、彼は東明の最期の真剣に付き合わされる事になったのである
映画は、桂介の竜昇戦に向かうまでの回想と同時並行で彼の過去を紐解く流れになっている
回想の前半は少年時代の唐沢夫婦との出会いと別れを描き、菊水月の駒の行方を追っていく
中盤では東明との出会いが描かれ、彼が賭け将棋の世界を体感していく様子を描いている
それらが重なったとき、なぜ東明は森の中で死に、別の場所で桂介の父の死体が見つかったのかが繋がっていく
ミステリーとしては最後まで真相がわからない作りになっているが、この一連の事件で桂介を立件するのはかなり難しいように思う
殺人教唆に関しても逃げようと思えば逃げ切れるし、奈津子(土屋太鳳)の立ち話だけでは正確な依頼とは言えないだろう
このあたりは東明自身が彼に嫌疑がかからないように阿吽の呼吸のような取引をしているので、桂介としては「育ての親」を殺さなければならなかった後悔の方が先立つと思う
それでも東明の残した「何があっても生き抜け」という言葉を借りるなら、投了となるまで強かに戦うのではないか、と思った
いずれにせよ、将棋映画としては「鬼殺し」という技のようなものが登場するだけで、それは東明と桂介を結びつけるものでしかない
とは言え、雑誌に載っている棋譜を再現しただけで、憧れの棋士だったで終わる話だと思う
東明の現場に駒があったことも、彼に奪われたという事実はあるので、それを貫いてしまえば証拠となるものは存在しないように思える
いざ逮捕まで漕ぎ着けたが、その後の裁判で有罪まで持っていけるのかは微妙だが、むしろその法廷で彼の頭脳がどれだけ検察を上回るのかを見てみたい気がする
最後の警察(竜昇戦)に向かう彼には迷いがないので、文字通り「生き抜く決意」を固めたのではないだろうか
佳介を破滅に追いやる偶然が重なりすぎ
桂介がかわいそうすぎる。
どれほど才能があろうが努力しようが、付きまとうクズどもに脅され食い物にされ、挙句の果てには犯罪者にまでさせられる。ようやく天職の棋士として世に出られたというのに。
クズ父には、金など出さずに唾でも吐いて都度叩き出せばよかったのに、「俺を殺して埋めてくれ」とかいうクソな元師匠のフザけた願いなど、いくらクズ父を殺してくれたとはいえ、「嫌だ」と断ればよいのに。佳介が頼んだわけじゃないんだから。それなのに頼みを聞いて、その上、恩人の形見の高価な駒セットを一緒に埋めるだなんて。遺体が発見されたらそこから足がつくのに。
傍から見ているともどかしいが、幼いころから虐待されてきた佳介は自分を大事にすることを知らなかったのだろうと思う。
自分を守るよりも、他人の思惑に沿う方を優先してしまう。
どれほど傷つけられようがひどい目に遭わされようが、そいつがほんの少しだけ、気まぐれに、優しくしてくれたり親切だったり、「自分のために」何かしてくれたことが、巨大な山のような恩になり記憶に残って、とにかくその恩に報いなければと思ってしまうのだろう。
恩というより負い目に近いよう。
自分がされてきたことの方がはるかに大きく重いのに、そっちは矮小化されている。
自分のことを大事にする発想がないからそうなってしまうんだと思う。
親の愛情に飢えている人にありがちな性質らしい。
こういう人は、世間に割と普通にいるようです。
眼光鋭く、余裕ありげな表情で、しかも結構なクズ。渡辺謙はこういう役にたいへんハマる。
命を懸けた真剣勝負に将棋人生を見出す東明、どん底まで落ちようが生きること=真剣勝負な将棋バカがとても良かった。
まじめ一方に見えた佳介が惹かれたのは、実はこの東明の棋風。
東明も佳介も、天から選ばれし将棋の魔力を持つもの、ありきたりの勝負では満足できない、命を懸けての真剣勝負にこそ人生を見出す鬼だったのでは。
東明のクズっぷり、佳介に将棋をつづけろ、生ききれ、と言ってる口で佳介に俺を殺して埋めろと。良くまあそんなことが言えるもんです。露見しなければ良いってもんじゃない。自業自得な人生の落とし前は自分でつけなさい、他人を巻き込むな。
佳介の人生に少しでも光がさすラストであって欲しかった。
佳介を破滅に追いやる偶然が重なりすぎ。
そこに向けてお膳立てされたような不自然なストーリーはいかがなものか。
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