「「盤上の向日葵」―光と闇の狭間で指された人生の一手」盤上の向日葵 leoさんの映画レビュー(感想・評価)
「盤上の向日葵」―光と闇の狭間で指された人生の一手
実は今回、映画『てっぺんの向こうにあなたがいる』とどちらを観るか少し悩んだ末、『盤上の向日葵』を選んだ。俺はやはりこっちやろってな感じ。
予告編で流れていたサザンオールスターズのテーマ曲「暮れゆく街のふたり」が、どこか昭和歌謡を思わせるメロディと、昭和の雰囲気を漂わせる俳優陣が印象的で、作品の空気感に強く惹かれた。
さらに、原作者が俺の好きな映画『孤狼の血』の原作者・柚月裕子さんであることも、鑑賞を決めた決定打。
この映画は、三つの時代を行き来する構成になっている。
事件が発覚し捜査が進む「1994年パート」、主人公・上条桂介(坂口健太郎)が真剣師・東明重慶(渡辺謙)と出会い、裏社会の将棋に足を踏み入れていく「1980年代パート」、そして桂介の幼少期にあたる「1970年代パート」。虐待を受けながらも懸命に生きる少年時代が描かれる。
昭和から平成へと移りゆく激動の時代の中で、登場人物たちの人生が大きく揺れ動く。
その流れを、原作やドラマ版を知らない人でも理解しやすいよう、丁寧にまとめた構成が印象的。
一方で、好みは分かれると思いますが、浪花節的な熱量のある台詞回しや、やや誇張気味の演出で涙を誘う場面も多いです。特に佐々木蔵之介さんの歌舞伎調の台詞回しは見事で、これはもう彼の“持ち味”と言える(個人的には好き)。
体調の良い日に観れば、素直に心を揺さぶられる作品。
逆に体調不良、気分が沈み気味の時に観ると、少し重く感じるかも。
季節の変わり目なので、体調管理を万全にして、映画館でじっくり楽しみたい一本。
1970年代パートで描かれる、虐待を受ける幼少期の桂介と、彼を救おうとする元校長・唐沢光一朗(小日向文世)とその妻・美子(木村多江)の姿には胸を打たれた。大人としての優しさと覚悟が心に残るシーンであった。
とはいえ、個人的に一番心に響いたのは、エンドロールで流れたサザンオールスターズの「暮れゆく街のふたり」。昭和の香りをまといながら、物語全体を静かに包み込むような余韻があり、最高の締めくくりだった。
以上
