「アシリパちゃんが出てる。」正体 ガバチョさんの映画レビュー(感想・評価)
アシリパちゃんが出てる。
全編を通して緊迫感のあるとてもいい映画だった。死刑囚が逃げるだけの単純なサスペンスドラマだが、考えさせられる問題を含み、登場人物の心情に心を動かされるヒューマンドラマでもある。
いわゆる「冤罪」を扱ったものだが、逃亡を図ったのは、単に刑を免れたいためではない。真実が捻じ曲げられる理不尽さに憤っての信念の行動であるのが共感を呼ぶ。徐々に鏑木の人間性が明らかになっていくが、犯罪者であるはずがないほど「正しい」人間である。そこが彼を単なる脱走犯とは呼べない、この物語の核心である。
逃亡劇を描くことが主眼であるため、肝心の冤罪がありきたりの安直な構図であるのはやむを得ないか。松重豊演じる刑事部長(?)のいい加減さは、警察から苦情が来るレベルである。年末で忙しいから早く片付けろだの、若年の犯罪抑止にちょうどいいから見せしめに極刑にしろなど、現代の警察ではありえない言動だと信じたい。少し調べれば、鏑木が凶悪な殺人犯ではあり得ないことはすぐ分かるはずである。警察の方針に振り回される又貫刑事の葛藤もよく描かれていたと思う。彼は陰の主役であると言っていいと思う。
さて、横浜流星演じる鏑木の逃亡劇の何と面白い事か。変装しキャラクターを変えて次々と居場所を変えて逃亡を続ける。追い詰められてやむを得ず逃げたように見えるが、どの場所も彼にとっては目的を果たすための重要なステップになっている。どこでも自分の居場所を作って、必要な情報を得るために全身全霊を注いでいることが痛いほど伝わる。そんな横浜流星の体当たりの演技に見入ってしまう。
鏑木の逃亡劇を支える人々にも胸が熱くなってしまう。彼と直接に接する人は、彼の正しさや真摯さといった人間性を理解して応援するのだろう。特に父親の痴漢冤罪事件に心を痛める安藤沙耶香の鏑木を「信じる力」には感動させられる。
横浜流星と吉岡里帆は映画賞に値する演技であり、味わい深い。アシリパの山田杏奈が出ていたのもちょっとうれしい。全く印象は違うけれどよかった。